米10年債利回りがいよいよ3%の壁を今日にも突破するか、と市場は身構えていた。欧米市場で、一時2.99%にまで上昇したが、結局それが昨日の高値。あとは2.6%台から2.9%台のレンジで推移した。

 

それでも、ドルは円に対して上昇を続け、108.70円台と、昨日の(ドルの)高値、(円の)安値で引けている。

 

市場は3%突破を先取りして見切り発車のごとく動いているようだ。

 

しかし、多くの市場関係者の間にはトラウマがある。

 

2016年初、2017年初に「今年こそドル長期金利3%台」と予測して外した苦い記憶が生々しく残るからだ。筆者も例外ではない。そこで、今年は3%には届かずと慎重な予測が増えていた。それゆえ、3%接近といわれても、俄かに見通しを上方修正するにはためらいが残る。それほどに「低金利慣れ」が沁みついているゆえ、3%の大台にあと一歩というところで逡巡するのだろう。

 

特に、今回は原油価格急騰がインフレ懸念を誘発したことが要因とされることで、3%という最近では高いドル長期金利水準が持続されるか疑心暗鬼になっているのだ。

 

ときあたかも、昨晩は、トランプ政権が対ロシア経済制裁の対象になったロシアの大手アルミ企業に10月までの「執行猶予」を与えるという救済措置を発表したことで、アルミ価格やアルコアの株価が二桁の急落を演じた。商品先物市場における投機買いが価格変動を増幅させている実態が図らずも晒されたので、原油高騰も何時急反落しても不思議はないという感覚が市場に醸成されたのだ。さすればインフレ懸念は後退して、ドル長期金利上昇傾向も萎むだろう。

 

ここに今回の円安の脆弱性を見る。

 

いっぽう、昨日のNY市場では、円安をサポートする要人発言もあった。訪米中の黒田総裁が経済テレビCNBCに生出演して、円安寄りのコメントを語ったのだ。

 

まず、日本の公的債務問題に関する議論の中で、笑いながら軽い口調で「円が安全通貨とされることが理解できない」と述べた。市場では会話の流れは無視して、その部分だけが独り歩きする。

 

トランプ大統領の通貨安牽制についての質問の答えの中では「円が時々強くなりすぎる」とも語った。

 

そもそも日本語には曖昧な表現が多いが英語は異なる。2%物価目標2019年度達成目標に関しても、英語発言では「あれは予測に過ぎない。審議委員たちは未だ上振れリスクより下振れリスクのほうが大きいと考えている。下振れに傾いている」となった。

 

若い女性キャスターに対して、ジェスチャー交え、終始笑顔で対応していたのが印象的であった。

 

これらの発言は円安を示唆すると現地では受けとめられている。

 

かくして、ドル長期金利が3%直前で足踏みする中、黒田英語発言が円安傾向を支えるごとき成り行きになった。

 

南北会談、米朝会談を控える中で、円安へ潮目が変わったと断じるのは早計であろう。

 

NY金はドル高で10ドルほど下げて1320ドル台。南北会談待ち。その間は金利要因で頭が重い。日替わりで、地政学的、政治的要因で買われ、金利要因で売られる日々が続いている。

 

それからパラジウムが50ドル以上暴落。アルミと同じくパラジウムも対ロシア制裁から外される可能性が生じたので投機筋の狼狽売り。本欄でもかねて警告してきたが、市場が小さいので価格変動も激しい。要注意。

 

なお、現在発売中の日経マネー連載コラム「豊島逸夫の世界経済深層真理」第76回「海外勢が主役の日本株、主導権取り戻すには」を書いた。