偉そうなこと言っている筆者も苦い失敗談には事欠かない。
チューリッヒでゴールドディーラーをやっていたとき、こういう経験があった。
連日、相場を張るのだが、スイス人の同僚に比べると、我ながら、実にめめしい。勝負に負けた日は、帰り道に、「ああ、なんであんな高いところで買ってしまったのか」とか「あそこでド安値で売ってしまうなんて」とか、とにかく悔いてめげるのだ。
いっぽう、スイス人の同僚はといえば、負けた日も、テニスで汗流し、ビールをひっかけて、気分転換出来ている。
こちらにも意地があるので(笑)、決して表に出さなかったが、そういうスイス人が羨ましかった。
そのような悶々とした日々が続き、あるとき、フランクフルトで日本人ディーラーたちの親睦会があった。
そこで、私がこの話を切り出したら、皆、実は私も、と次々に「カミングアウト」を始めたのだ。
やはり、日本人はそもそも相場の短期決戦には向いていないのだろう、と痛感したものだ。
その代わり、日本人は長期のスタンスでじっくり考え取り組むことは得意だ。
長期投資には向いている。逆にスイス人は苦手な部分である。
こんなジョークがある。スイス人がタクシーでアルプスに登って下り始めたときブレーキが故障。
車のコントロールが効かずパニックになったとき、スイス人の客が後部座席でなんと叫んだか。「メーターを止めろ!」
このようなエピソードもある。スイス銀行のロンドン現地法人、といっても行員3,000人の大所帯であったが、そこのトップ1、2,3は代々オランダ人だった。
よく「オランダ・スイス銀行」などと揶揄されたものだ。
ディーラーとしてロンドン市場よりパリ市場のほうが割安とか、目先の動きには実に敏いのだが、組織のマネジメントとなると苦手なのだ。
そこは、さすが全世界を相手に植民地を支配した歴史ある国ゆえ、オランダ人が優る。
何事も得手不得手はある。日本人は長期投資を貫けば良い。
なにも短期投機の分野でガイジンに張り合うこともあるまい。
こういうと、読者諸兄からは即、反論が聞こえてきそうだ。
私は違う。百戦錬磨で鍛えられ、そんな臆病者ではない!!
一般論ゆえ、勿論、日本人にも短期決戦大歓迎の豪傑も少なくない。
事実、スイス銀行にも、伝説の日本人ディーラー氏がいた。ポーカーをやらせればプロ級。
とにかく賭け事は強かった。天才肌だった。
ただ、総じて日本人には秀才肌が多いということだろう。