「プラチナ」
(ドル建てプラチナ2018年年初来の動き)
プラチナにとって2018年は散々な一年でした。年初は935ドルから始まり、1月25日に高値の1029ドルをつけてからは下落の一途をたどりました。安値は8月16日につけた755ドルでその後は878ドルまで11月7日に戻したあと、ふたたび800ドルを割り込み、この原稿を書いている12月末現在789ドルと低迷しています。ゴールドとの値差も12月に入りまた広がり始め、今月12月末には483ドルまでその差が拡大、歴史的にみて最大の逆転幅となりました。
(プラチナとゴールドの値差)
またパラジウムとの関係もその差が広がる一方となり、同じく12月末現在パラジウム1に対して、プラチナは0.63とほとんど半額に近くなっています。
(プラチナパラジウム比価)
特にゴールドそしてパラジウムが堅調さを維持している中、プラチナとシルバーが弱いのが今年一年の特徴でした。
「背景」
・供給面では副産物の価格の上昇とランド安のため、南ア生産者の事業リストラのスピードが大幅に鈍ったこと。
・需要面では、米中貿易戦争による中国消費者への心理的影響からの宝飾品需要の減退そして欧州のディーゼル自動車シェアが30%のマーケットシェアへと減少していること。
・南アランドが年前半の1ドル11ランド台から一時15ランドを越えるまで下落し、そのままランド安が続いていること。世界の生産シェアの70%をしめる南ア鉱山会社にとってはランド建てプラチナ価格が上がる追い風なるも、ドル建て価格には下げ要因。
(南アランドとプラチナ)
・10月の株価の急落以来の神経質な株式市場から投資家マネーがゴールドに流入しているが、残念ながらそのマネーの流れはプラチナには来ず、それがゴールドとプラチナの値差の拡大の要因になっている。
「2019年見通し」
(弱気要素)
・プラチナをより触媒として使う燃料電池の成長と増加するであろうパラジウム代替としての需要は、長期的には需要を底上げするだろうが、短期的にこのマーケットの需要を押し上げるような要素は残念ながら見たりません。生産の合理化が行われない限り、2018年のように2019年も投資家はプラチナに対する投資は控える、もしくは場合によってはショート(売り越す)可能性も十分あり得、プラチナが厳しい状況はまだまだ続きそうです。
・欧州の各都市のディーゼル車に対する乗り入れ禁止などの否定的な空気のため、ディーゼル車の販売はさらに縮小し、自動車触媒需要の減少が続く。
・ガソリン車の自動車触媒に使われるパラジウムの代替としてプラチナが使われるべきだという声は強いが、大規模な代替の動きは起こらないと予想。(パラジウム使用の現在の工程をプラチナ仕様に変えるのは、コスト、時間もかかり、将来への不安も同時に生むことになるから。)
・宝飾需要も中国での低カラットのゴールド宝飾品との競争があり、伸びつつあるインドのプラチナ宝飾の伸びを相殺する可能性が強い。
(強気要素)
・投資需要は、割安な価格のためのインゴットとコインの売り上げの伸び、そしてETFへの投資マネーの流入が倍増するという見方が強い。
・自動車触媒以外の工業用需要は過去5年間の世界のGDPの伸び3.5%に比べて、平均で4%以上の伸びを記録しており、このトレンドは続くものとみられている。この伸びの主な要因は化学品と石油化学分野からの需要。
(価格の動きの予想)
上記の状況を踏まえると残念ながらプラチナに強気にはなれません。しかしながらドル建てで800ドルを割るこの価格は生産者の生産コスト(900ドル前後と計算されています。)を大きく割り込んでいます。プラチナがゴールドやパラジウムに比べて、大幅に割安に捨て置かれているのは確かです。プラチナ独自の要因ももちろん重要ですが、投資家の資金がゴールドばかりに向かっていること、そして昔パラジウムが安かったことにより、世界の自動車の大部分を占めるガソリン車の触媒にパラジウムが使われたことにより、プラチナが不幸にもこの三者のメタルの中で最も安い、それも遥かに安いメタルになってしまったのです。しかしたとえば触媒としてのパラジウムよりも遥かに勝る性能、パラジウムにはほとんどない宝飾需要、そしてゴールドの18分の1の鉱山生産量という希少価値などを考えると現在のような価格差はむしろ非常に不自然であり、特殊な状況であるのではないでしょうか?そう考えると800ドルを割れたこのレベルからのさらなる下げはあまり予想できません。
少し残念ですが、プラチナ上昇の最大の材料はゴールド。ゴールドは来年は大きく上昇する可能性があると考えます。株式市場の不安定さ、そして予測不能のトランプ大統領の動きからの投資家の不安、そしてこれまで数年間のゴールド下落の最大の要因であったFRBによる金利下げはもはやその終局が見えてきています。ゴールドが上昇すれば、どういう割合であれプラチナも引き上げられるでしょう。
とすると、5年、10年といった長いスタンスで相場を見ることができるなら、圧倒的に絶対値が安いプラチナは買っておいてもよいのではないかと思います。円建てでも今年の最安値は8月15日の新興国通貨と商品が同時にロングの損切り売りで下がったとき以来の2700円台にまで下がっています。長い視野でみるとこれはちょうど10年ぶりの安値にあたります。これはやはりバーゲンハンティングとしてはよいレベルかもしれません。ゴールドが1400ドルまで上がるとするとプラチナは1000ドルまで上昇するでしょう。円建ても2700円台から3500円くらいまでの動きは十分あり得ると考えます。
(円建てプラチナ過去1年)
以上