「歴史的な高値を何度も更新したゴールド、その背景と今後」


今年ももはや半分が過ぎてしまいました。
ドル建てゴールドは年初からみると現状で約10%の上昇です。
しかし最も上がっているのは円建てのゴールドです。
年初は9,349円で始まり、現在11,823円25%以上の上昇となっています。
5月20日につけた歴史的高値は12,261円でこれは年初来で考えると30%以上の上げでした。
それから現在は少し落ち着いていますが、マーケットのアナリストたちの大半は今年後半にかけて一層の上昇があるだろうという予想が強いです。

 

(円建てゴールド:年初来)
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(円建てゴールド:年初来)

ゴールドが貴金属の中でも特別な強さを示している最大要因は、これまでの理論では考えられないような買いがマーケットに入っていることにあります。
これまで長期金利の上昇は、ゴールドにとってはマイナス要因でした。
金利が上がれば、ほとんど金利を生まない(でも実際は少しは金利を生むのですが)ゴールドは基本的に売られます。
投資家はより金利の高いドル(米国債)へと資金をシフトするという動きになります。
実際過去2年米国の10年債利回り(これを長期金利と呼ぶのが一般的です。)をみてみると2022年8月の2.6%から2023年10月のわずか1年あまりで5%へと大きく上昇しました。
本来ならばゴールドはこれで大きく下げておかしくないわけです。
2008年、前回長期金利が5%台であったときのゴールドは700ドルでした。
ところが今回はこの金利の上昇を持ってしてもゴールドは下がらず、逆に1,600ドル前半から2,000ドル越えへと400ドルもの上昇となったのです。

 

(米長期金利とゴールドの動き:2年)
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(米長期金利とゴールドの動き:2年)

実際欧米の投資家は、これまでの常識通りにゴールドを売りました。
これはGold ETFの残高がこの2年間ほぼ一貫して減り続けているのをみれば一目瞭然です。
(この5月になって久しぶりにその売りが止まっています。)
これだけの売りがあるのにも関わらずゴールドの価格は特に2024年に入ってから歴史的高値へと大きく上昇しました。
この上げはこれまでの常識では説明できない「ミステリアスラリー」として世界のアナリストを悩ませました。

 

Gold ETF flows
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Gold ETF flows

「金利上昇にもかかわらずゴールドが急騰した背景」


ではなぜこのような状況になったのでしょうか。その背景を解説します。


1.新興国の中央銀行のゴールド買い


2022年と2023年ともに中央銀行のゴールドの買いは1,000トンを超えました。
これはその前、中央銀行が全体で買い手になった2010年以来の年間の最大の買い数量がせいぜい600トンであったことを考えると、2年連続で1,000トンを超える量を中央銀行が買ったことは非常に大きなインパクトとなる。
ゴールドの鉱山生産は年間3,600トンであることを考えるとその3分の1に近い数量を中央銀行が吸い込んでいるのである。
彼等の買いは金利とはまるで関係のない買いである。
米国を中心とする西側と対立する中国やロシアにとってはドルを資産として持っていることが、今やリスクとなっており、彼等は米国債を売り、ゴールドにその資産を乗り換えているのです。
 

 

(2010年からの中央銀行のゴールド買い)
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(2010年からの中央銀行のゴールド買い)

つい最近WGC(World Gold Council)が中央銀行に行ったアンケートでは、その81%がこれから一年の間に中央銀行がゴールドの準備を増やすという見方を示しています。
つまりこれからも中央銀行のゴールド買いは続くと考えてよいでしょう。

 

(今後1年間の中央銀行のゴールド買いはどうなるか?)
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(今後1年間の中央銀行のゴールド買いはどうなるか?)

2.中国の個人投資家のゴールド買い


中央銀行のゴールド買いに加えて、中国では個人投資家のゴールド買いが膨らみました。
特に4月にゴールドが2,000ドルから2,400ドルへと急騰したことの背景には中国の個人投資家がゴールドに大きく入ってきたことです。
中国のゴールドを上場している先物取引所の出来高が爆発的に増えています。
中国ではこの二年間株価が低迷、不動産市況も下落が続き、人民元もその価値が減ずる一方でした。
暗号資産の取引は禁止されている彼等にとって唯一資金を持っていける先がゴールドだったのです。
先物に加えて現物のShanghai Gold Exchangeでも昨年は世界の標準でロコ・ロンドン・ゴールドに対して35ドルものプレミアムがついていました。
そして現在でも25ドルと、世界のゴールド価格とはかけ離れた価格になっています。
つまり中国は中央銀行のみならず個人もゴールドを買っています。

 

(Shanghai Futures Exchange のゴールド出来高)
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(Shanghai Futures Exchange のゴールド出来高)
(Loco London GoldとSGEゴールド)
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(Loco London GoldとSGEゴールド)

「ゴールド今後の見通し」


FRBの金利下げは年初は6回との見通しが、半年がたった今もまだ金利下げに至っていない。
そして現状では年内1回とまでその見通しが下がっている。
しかし、いずれにしても次の動きは金利下げです。
おそらくは9月。そしてこの実際の金利下げこそ、今まで金利高を理由にゴールドを売ってきた西側の投資家が、ゴールドの売りから買いに転換するきっかけとなるでしょう。
そうなると下値では新興国の中央銀行と個人投資家のゴールド買いがマーケットを支え、これに加えて西側の投資家が買いに回ると彼等のショートカバーとフレッシュロング買いでダブルのインパクトがあります。
年後半にはふたたび歴史的高値(5月20日 2,,449ドル)を更新し、2,500~2,700ドルまで上昇してもおかしくないと思います。
それに至るまではしばらくは2,300-2,400ドルのレンジでの取引になりそうです。
2,300ドル割れなど下がるときがあれば、拾っておく、ポートフォリオにゴールドを足すチャンスだと思っていいのではないでしょうか。

                                                                                                                                                                        以上