6月第2週にシンガポールに行ってきました。Asia Pacific Precious Metals Conferenceという国際会議でプラチナとパラジウムに関してスピーチしてきました。私の話した内容はほぼこれまでこのコラムに書いてきたことです。2019年後半の予想レンジとして、プラチナは770ドルから900ドル、パラジウムは1275ドルから1500ドルとしました。(スピーチ当日のプラチナは800ドル、パラジウムは1350ドル。)パラジウムに関してはもはや私の予想を超えて6月25日には、はや1546ドルまで上昇しています。
パラジウムは3月に1600ドルをつけてから投資家の利食い売りにより1300ドルまで下げてしばらく揉んでいましたが、ようやく上昇し始めました。これまでも書いてきたとおり、やはりファンダメンタルズは非常に重要です。パラジウムのそれは過去9年間、供給不足が続いてきているという蓄積された状況にあり、その深刻さは増す一方だと考えてよいでしょう。供給不足幅は年々増加してきており、それは一重に自動車触媒の増加によっているといえます。(下記表参照)
(GFMS PGM Survey 2019より)
供給がほぼ安定的に推移し、大きな変化がない一方、需要は年々確実に増加しています。特に自動車触媒全需要のほぼ8割を占めており、過去10年間で110トンもの大きな増加になっており、これがパラジウムの供給不足の最大の理由になっています。2018年はパラジウムの触媒が使われるガソリン車の売上げは約1%の減少になりましたが、中国そして欧州では、近い将来に排ガス規制がより厳しくなり、より多くのパラジウムそしてロジウムを使う必要があり、それに対して前もって調達するという動きも出ているようです。車の台数よりも一台に使われるメタル量が増えているということです。
この自動車触媒を含めて、先月ロンドン・プラチナ・ウイークがありましたが、そこで話題になったトピックスも今後の参考になりそうなので以下に紹介しておきます。
「排ガス規制」
排ガス規制はより厳しく複雑になりつつあり、そのスピードは技術の進化をはるかに超えるペースとなっている。規制当局はこれまで排ガスの排出量を減らすことをターゲットに、規制を厳しくしてきたが、現在は規制当局は、自動車の排ガス「試験」を厳しくすることに重点を置き、これまでよりもより厳しいテストを行うようになっている。規制のレベルそのものは変わらなくても、厳しいテストを通すためにはより多くのPGMを使用するという状態。そのため触媒の使用量は増加しているよう。
「電気自動車」
内燃機関エンジン(PGMを使うもの、ガソリンとディーゼル)対EV(電気自動車)という単純な図式ではなく、実際にはそれぞれ得意分野で用途が違う。EVは短距離、ハイブリッドおよびプラグインハイブリッドは広範囲で使われ、FCV(燃料電池車)は中距離から長距離をカバーする。トヨタはハイブリッドをもっともコストパフォーマンスがよいエンジンだとして、そちらの方に注力している。研究開発費はまだ現実的なハイブリッド車に注がれ、EV車の広がるスピードはまだまだゆっくりであり、各国が掲げているEV車普及の目標は現実からは程遠いイメージである。また二酸化炭素の排出制限が世界の経済のスローダウンにつながるとの見方、そしてEVが抱えるインフラの問題もあり、まだまだ内燃機関車およびハイブリッド車がメインの時代が続きそうという意見が大半。
「プラチナによる代替」
少しは起こりつつあるとことだが、残念ながら宝飾需要の減少と鉱山生産の増加をカバーできるようなものではない。あったとしてもごくわずか。現実的には価格、供給の信頼性そして排ガス規制のルールの遵守という観点からプラチナによる大規模なパラジウムの代替は起こりそうもない。
「供給側動向」
世界のパラジウム精錬所はほぼフルキャパシティで動いている。パラジウムの供給不足は潜在的なプラチナの弱材料となっている。パラジウムは単独鉱山はなく、プラチナかニッケルの副産物として生産されるのがメイン。パラジウムの高騰で、より多く生産しようとする鉱山会社は、プラチナの増産につながるということになり、プラチナの供給過剰に拍車をかけることになる。
(ドル建てパラジウム)
(円建てパラジウム)
以上