注目のCPI(米消費者物価上昇率)は久しぶりにインフレ鈍化を示し、FRB年内利下げ見通しが復活した。これは金には追い風。
以下、米CPIについての詳説。
「1-3月のインフレ指標上振れにより、物価目標2%達成に、自信が持てない」と5月14日にはアムステルダムで語っていたパウエル議長も、4月CPI鈍化が確認され、とりあえず安堵しているであろう。
とはいえ、同氏は常々「最も恐れるのは、国民の間にインフレ・マインドが定着することだ。ひとたび定着すると、この心理状態を変えることが難しくなる」とも述べてきた。
実際に、米国民の生活を見るに、物価が下がったとの実感は薄い。米国個人投資家は、4月CPIの結果を確認して、米経済軟着陸への自信を深めているが、実生活でインフレの呪縛から解放されたとの安堵感に浸る心理的余裕はない。
消費者物価上昇率3%以上の状況が3年も続いているのだ。
パウエル議長にしても、サービス産業由来のインフレが最も頑固であるとの認識は容易に変えられない。
そこで、物価下落の「ラグ」を考慮したうえで、利下げへの転換を宣言出来る具体的時期として浮上してきたのが8月恒例のジャクソンホール中央銀行フォーラムだ。
FRB利上げ加速の時期には、パウエル議長が、この会議で、超タカ派ともいえる講演を行い、市場が驚愕したものだ。
それが、今年は、高らかに緩和へのピボット(転換)を明言する場になる可能性がある。
もちろん、今後も、毎月、雇用統計とCPIに振り回される状況は変わるまい。
但し、これら重要経済統計が仮に上振れしたとて、「統計上のノイズ」として片づける余裕は醸成された。
今後の米インフレについて、市場の目線は「財政赤字や地政学的リスク由来の物価上昇」を重視することになろう。
ドクター・カッパーの異名を持つ銅の価格急騰も、昨日はさかんに議論されていた。
なお、大統領選直前の金融政策変更は、いかに政治的独立が保証されているとはいえ、パウエル議長としては避けたいとの観測も絶えない。
パウエル議長の後任候補として、トランプ氏と良い人間関係を築いてきたウォラー理事の名前が挙がることも、悩ましいことであろう。
利下げ開始時期や回数にしても、ウォラー氏は、タカ派とハト派のどちらとも解釈できる発言で、市場をかく乱してきた。
パウエル議長も、FOMC内の根回しに時間をとられる可能性がある。
まずは、6月11,12日に開催されるFOMCの際に発表されるドット・チャート(FOMC参加者の金利予測分布)が極めて重要になる。
そのうえで、ジャクソンホール会議に身構えることになりそうだ。
既に、気の早い市場関係者たちからは「今年の夏休みは、家族のなかで、私だけが早めに切り上げることになるかもしれない」との「ぼやき」も聞こえてくる。
なお、円建て金価格形成に重要な円安への影響だが、153円まで円高局面もあった。
しかし、NY市場内では、中期的に150円台は当たり前の如き市場センチメントが醸成されつつある。
基本的に、FRBの「金利は高水準に維持する」(hold and longer)の姿勢は変わらず、為替介入で140円台後半に持ち込むのは困難との見解が主流だ。
もはや米インフレより円安のほうが「粘着質」と語られている。
円建て金価格が為替要因で下がりにくい状況は未だ続きそうだ。