円相場の見通しに160円台が増えてきた。仮に国際金価格が上がらずとも、為替要因で円建て金価格は上がりそうだ。
その円安に関しては日銀とFRBの情報発信の違いがNY市場では話題になっている。

例えば、「日銀会合で参加者たちはドット・チャートのような個人的金利予測を行わないのか」というような質問が印象的だ。
「日銀総裁の記者会見での発言が断片的に英訳されて伝わってくるが、よく理解できない」という素朴な疑問も目立つ。
「たしか、今回の日銀会合では、利上げ見送りが事前予測であったと聞いている。緩和継続も想定内であろう。それが、結局、総裁の円安に関する直接的発言が不十分或いは分かりにくいとの理由で、円相場はレッド・ラインを突破した感がある。市場は、円安について、日銀総裁から、不安感を除去するような発言を事前にそれほどに期待していたのか。
我々、遠く観客席から見ていた視点では、なにやら、試合中にゴールポストが移ったような印象だ。これでは、まさしく投機筋の思うつぼではないのか。」とのコメントもある。


筆者も、日銀会合とFOMCの際の中央銀行トップ記者会見を見続けてきたが、たしかに、日銀のほうが日本人でも解釈が難しい。
行間を読まねばならず、禅問答の如く難解だ。しかも、同じような質問が繰り返される。
対して、FRBのほうは、若手の女性記者たちが、「ハロー!ミスターチェアマン」と明るく切り出すシーンなど、フランクな印象で、質問の内容も多岐に亘る。
FRB高官たちが、常日頃、利下げ回数など具体的に意見を述べているので、日銀に比し、かなり突っ込んだ議論が交わされる。


いっぽう、円売り投機に走っているヘッジファンドは「高笑い」かと思いきや、介入当局との我慢比べの様相で、緊張感がひしひしと伝わってくる。
140円台後半から150円程度で円を売った人たちは、声高に、介入があっても150円に戻すのは難しい、と強調する。
しかし、円という通貨を持っていないのに、円を売った人たちの心理は、早々に円を買い戻さねばという焦りに揺れるものだ。
そもそも損切りより利益確定のほうが「欲との戦い」で難しい。
まして、相手が介入当局となれば、これは我慢比べとなる。
先週金曜日に発表されたIMM(通貨先物取引所)の円ショート件数はネットで179,919枚と記録的な高水準まで膨張したが、この数字は先週火曜日時点のもので、日銀会合後の円売り枚数は未だカウントされていない。
いずれにせよ、市場の底流には、円買い戻しマグマが沸々と蓄積している。
当面、円売り優勢論が圧倒的だが、投機筋の本音は、いつ臨界点に達するのか、戦々恐々なのだ。
彼らの悪夢は、米インフレが今後意外に順調に収束して、FRBも安心して利下げできる市場環境になることだ。
FRBの制御不能な地政学的リスクやら、財政赤字膨張によるインフレ再燃は米金利高止まり要因として秘かに「期待」しているところとなる。


現時点では、ファンダメンタルズが明確に円安方向を示唆している。
とはいえ、為替市場の大多数が同じ方向を向くことは不気味なものだ。

 

なお、28日の日経朝刊社説で、「金高騰が映す世界経済リスク」と題する論説が載った。


本ブログの読者なら、当たり前の話でも、社説を書く人には、新鮮な話なようだ。
やはり、平時に金は注目されず、有事に注目される傾向は変わらないようだ。
一般読者は、有事の金が騒がれ始めると、金を買うか、という気持ちになり、平時の時から金を買い増すという発想に欠けているようだ。
有事になって「金高騰」と、はしゃぐのは、後出しじゃんけん!