1970年代に金業界に入った人間として、まさか、13,000円という数字が現実のものにあろうとは、夢にも思わなかったよ。
感慨深い。
しかも、この歴史的高値圏で、日本も含め、世界的に買いが続いている。
高値で売戻が当たり前だったが、今や、その市場の常識は世間の非常識となった感がある(笑)
金は世界経済を映す鏡、ということが筆者のスローガンだが、金市場の需給だけを見ていても、井の中の蛙になる。
不安定な株価、高いドル金利、世界的ドル高基調。
金利高とドル高は金の法則では、売りのはずだが、それをこなして、あるいは、無視して、投機筋はNY市場で買いに走っている。
昨日はパウエル議長の爆弾発言にNY市場が揺れた。
そもそも3月7日の上院銀行委員会における証言で、パウエルFRB議長は、インフレ鈍化により利下げに踏み切ることに自信をもつのは「遠いことではなかろう(not far)と語っていた。
しかし、4月16日には、「最近の経済データにより、明らかに(インフレ目標達成の)自信が持てなくなり、その自信を得るまでに未だ時間がかかる」とあっさり前言を翻したのだ。
パウエル氏は、今回のインフレ勃発時には「一時的」と甘くみて、インフレ対応が後手に回り、更にインフレ収束段階でも見誤り、屈辱の成り行きとなっている。
パウエル氏は弁護士出身でエコノミストではないから、などと市場内では陰口もたたかれている。
市場では「FRBには逆らうな」から「FRBを疑え」が合言葉になった。
中央銀行が信頼性を失うとき、マネーは、中央銀行が発行した法定通貨ではない「無国籍通貨」=「金」に流れる。
金融政策不信を映す金高騰といえよう。
そして円安により円建て金価格には強い上げ圧力がかかる。
昨晩のパウエル議長の変心に最も困惑しているのは、日本の金融当局ではないか。
円安がドル高要因で年内続く可能性が強まったからだ。頼みのパウエル氏が、利下げへのピボット(転換)の自信を無くしたと明言したことは、深読みすれば、不透明な市場環境で、為替の異常な動きを抑制する介入に対して、理解を示したとも深読みできる。
しかし、ドル金利の高止まりによるドル高基調の最中でのドル売り・円買い介入は、益々「アウエー感」が強まる。
仮に140円台後半までの円高を実現できても、介入の手を緩めれば、世界中の為替投機家たちが、ドル買い・円売りを再開するであろう。
そうなると「モグラ叩き」になりかねない。
通貨投機集団にしても、今回ばかりは、FRB議長お墨付きのドル買いとなろう。
福島を第二の故郷とする筆者などは、錦の御旗をいただく官軍に追い込まれる会津藩を連想してしまう。
振り返れば、日本金融当局が、「介入するなら今」という絶好のタイミングを失している。
4月11日日本時間早暁のこと。
NY市場大引けを待っていたかのように投機筋が円売り加速を狙い仕掛けて、153円の大台を突破した。
時間外ゆえ最も取引が薄い時間帯が狙われた。
しかし、同じ理由で介入当局も、場に出ている円売り注文をかたっぱしから全買いしやすい時間帯でもある。
しかも、午前9時以降は東京市場がオープンして、当局もアウェイから一転ホームゲームで戦える。
元スイス銀行為替貴金属トレーダーの筆者は「介入やるなら今だ」と思ったが、結局、動きはなかった。
次の防衛ラインは155円。
今度こそ待ったなしである。
添付写真は、福島県の釈迦堂川の桜。
友人が送ってくれたよ。
御用繁多で花見もままならなかった金相場が憎い(笑)