一般メディアが「金1万円時代」を報じ始めたので、金買取店舗は、金売り戻しラッシュの如き状況になっている。
札幌でも、さっそくデパートが「金買取コーナー」を即席で立ち上げた。
売り手の個人は、「投資的売買」というより、箪笥の肥やしになっていた古い母のゴールドジュエリーを、おそるおそる、持ち込んでみたら、5万円も「貰えちゃった。ラッキー」程度の感覚だ。


そこで筆者が思い出すのは、ギリシャ危機のときのアテネ。
財政破綻した国の唯一の「成長産業」が金買取業とまで現地では言われていた。
たしかに、地下鉄の駅を降りると、必ずといっていいほど、駅前近くの立地に金買取チェーン「GOLD BUYERS」の看板が目に入ったものだ。

 

アテネの金買取店

実際に、買取の現場も見てきた。悲壮な場面であった。
明日のパン、オリーブオイルなどを買うため、母の形見のゴールドジュエリーを、泣く泣く手放すという事例が典型であった。
「売れちゃってラッキー」という気楽な雰囲気ではなかった。
欧州に流入した移民たちの間でも、小さな金塊を毛糸で包みボタンに仕立て上げて、着用の洋服につけて、入国するという事例が見られた。


日本の場合は、投資として購入した金現物も大量に売られている。
なにせ、グラム1,000円!の時代から、金地金が買われてきたのだ。
世界的に金価格が低迷していた時代でも、日本だけは、単に「安い」という感覚で、大量に金が買われた。
年間金需給統計でも日本の個人の買いが目立ったときもある。
いわゆる「ナンピン買い」あるいは「バーゲンハンターの日本人」と海外では言われた。
欧米のゴールドアナリストたちから「なぜ、金価格低迷の時代に、日本人は金を買いまくるのか」と訝り聞かれたものだ。
しかし、結果は、1万円近くで売れるわけだから、日本人は世界有数の金投資家だと筆者は常々思っている。
インド・中国・中東でも「バーゲンハンター」は多く、金価格が安くなれば、現地の金価格が国際的に割高になるほど、買われてきた。
但し、日本人より金への文化的愛着が強いので、金が高値になっても、そう簡単に手放す気はない。
それでも、歴史的高値圏の今、現地に聞けば、明らかに、金の買取は増えている、という。
一人数十グラムの小さな単位でも、世界全体で通年で見れば、数百トンを超えるから、長期的金価格の頭を抑える影響があるといえよう。
特に2,000ドルを超えれば、現地通貨次第だが、現物売り圧力は強まる。
但し、売りの波が最も強くなるのは、金価格が急騰後、下降を始める段階だ。
店頭でも、金地金を売るつもりで来店したものの、きょろきょろ店内を見渡し、店員に「今日は売りが多いの?買いが多いの?」とさりげなく尋ね、買いが多いと聞くと、その日は売らずに帰宅するというような傾向も見られる。


投資で最も難しいのは「損切りの売り」ではなく「利益確定の売り」のタイミングだ。
自らの欲とのせめぎあいだからね。
最高値で売り抜けるなどという神技はプロでも超難関。
投資家心理としては、最高値を見てしまうと、そのあと、下がったところで売ると、損したような気分になるものだ。
筆者も、偉そうなことは言えない。
「しまった。早く売り過ぎた」とか「しまった。売りが遅れた」と後悔することがある。
ただ、プロゆえ、そうした欲を抑制する術は心得ているので、悔しさを引きずることはない。
今回の金価格上昇トレンドも、いつ最高値をつけえるか、聞かれるが、分からないよ。
ただ、円安効果での円建て金価格最高値には、中期的に警戒感を抱いている。