以下は、朝日新聞本日朝刊に載った筆者の原稿の採録です。


「デフレが染みついて物価が上がらない国」と言われた日本でも、ついに消費者物価上昇率が4%台まで上昇してきました。
資産運用の世界でも、「インフレに強い金」が世界的に買われています。
国際的に売買されるドル建て金価格は史上最高値圏で上がったり下がったりしています。
国内の円建て金価格は、昨年に続き、今年も既に過去最高値を更新しました。
過去の事例では、史上最高値と聞くと、保有している金を売却する動きが目立ちました。
しかし、今回は、売る人もあれば、今回のインフレは長引きそうだから、あえて売らず、逆に、積立方式で買い増す人さえ見られます。


たしかに、今回のインフレは、筆者のようなベテランでも初体験の「変異種」です。
コロナバブルで物価が上がるという側面と、コロナでモノやカネの流れが至るところで寸断されて価格が上がってしまうという二つの重要な要因が絡んでいるのです。
それゆえ、米国の日銀にあたるFRBの議長パウエル氏も、インフレ退治を最優先に掲げているのですが、痛恨の判断ミスを犯すなど大苦戦を強いられています。
当初、今回のインフレは「一過性」と読み違えたからです。
その結果、インフレへの対応である金融引き締め=利上げが後手後手に廻り、出遅れを取り戻すために一回に0.75%もの「ウルトラ利上げ」を4回も繰り返すという、いわば「劇薬接種」を強行したのです。
しかし、荒療治に副作用はつきもの。具体的には効き過ぎて経済が不況に陥る可能性も出てきました。

こうなると、投資家は、物価上昇にも、不景気にも備えねばなりません。
この二つの条件を満たす投資対象として、希少貴金属として独自の価値を持つ実物資産である金が買われているのです。
例えば、同じ実物資産として不動産も挙げられますが、こちらは物価上昇には強くても、不況になると不動産価格は下落してしまいます。
その点、金は不況になれば「安全資産」として買われる傾向があるのです。
欧米では「金は嵐の晩に輝く」と言われます。
経済が過熱しても、冷え込んでも、暑さにも寒さにも強い全天候型の資産なのです。
では、金が下がるときは、どういうときでしょう。
ズバリ、インフレもデフレも心配のない、つまり、経済が過熱も冷えすぎも心配のない状況になる場合です。
それゆえ、私は、「金は長期に保有して役立たないのが一番」と言っています。
コロナ、ウクライナ戦争、中国リスクなどが、一斉に払拭されれば、リスクヘッジとしてじっくり金を積み立てる必要もなくなるでしょう。
私も、個人的には、そのような平和な時代が来てほしいと痛烈に感じています。
ただ、現実は、それほど甘くないことも事実です。ここは、皆さんがじっくり考えて判断してほしいと思います。


以上


さて、NY市場は、3連休後、今晩再開。
その間、FOMC参加者でFRB利上げ上方修正論者が2人から4人へ増えています。
メスター・クリーブランド連銀総裁とブラード・セントルイス連銀総裁に加え、バーキン・リッチモンド連銀総裁とボウマンFRB理事が、「参戦」しました。
インフレは、殊の外、しつこく、ターミナルレートは5.25~5.5%程度まで引き上げる必要がある、との議論。
一回の利上げも0.5%刻みを支持。(バーキン氏だけは、0.25%支持派です)。
このペースでゆくと、今週中には19名のFOMC参加者の半分程度は、利上げ上方修正派に廻るかも。


なお、市場のドル金利予測は、既に、FRB予測に追い付き、追い越しています。
結局、市場はFRBに屈したわけです。
その結果、ドル高円安。NY金は頭が重い。
今週も、FOMC参加者の講演・発言に要注意。


なお、植田日銀に関して、NY市場は、当面、実質利上げなどには動けない、と読んでいます。
1%でも利上げしたら、金融財政ショックを誘発するリスクがあるからです。
日本では、大論戦が展開されていますが、NY市場は、冷ややかに見守っている感じ。
日本人として残念なことですが、最終的には、日銀の存在感は薄く、FRBが「世界の中央銀行」となっているのが現状です。
円相場も、日銀要因で円高と言われつつ、結局、FRBの利上げ強硬論に引っ張られ、円安方向に動いているのが、象徴的でしょう。