もうNHKまで報道しているほど大波乱。
パウエルFRB議長をドクターに見立て、分かりやすく纏めた。
ドクターからのメッセージは以下の通り。
「インフレ熱は酷いね。痛い治療(利上げ)を、症状が軽くなったかなと思われても、続けるよ。インフレ熱は、ぶり返し慢性化する傾向があるからね。(今月から本格化する量的引き締めQTもあるから)これから、もっと痛くなるから覚悟してね。回復の症状が強まれば、注射の回数を減らすこともあるよ。でも、初見のときより、病状は手強いね。」
そう言われた金市場は、インフレ退治のため、そこまでの利上げを強行すると、金利を生まない金には不利だな。ドル金利上昇を見込み、ドルインデックスは108と記録的高水準のドル高でこれも金には逆風だ。来年には痛み止めの利下げもあるかと期待したが、厳しそうだ。(ターミナルレートは4%近くで、中立金利を遥かに上回る事態が予見される。数回、インフレ頭打ち傾向のデータが続いても、それが、確認されなければ、強力な引き締めを続行する姿勢だ。)
但し、金には中期的な追い風もある。
これだけやっても、しつこいインフレが制御不能に陥る可能性だ。
特にコロナ対策での大盤振る舞いの結果、民間には相変わらず、カネが有り余っている。これもいずれインフレを悪化させる可能性がある。中間選挙を控え、財政ばら撒き、あるいは減税もあり得る。
その結果、ドルへの信認は低下する。
外為市場ではドル高でも、いやいやながらドルを決済通貨として使っているのが実態だ。無国籍通貨としての金の出番がある。
結局、NY金は1730ドル台。下がったものの、1700-1900のレンジ内に留まる。円安は137円台。
そして、以下は、中級者向けの説明。
株安と失業増を、パウエル氏はどこまで容認するのか。
インフレ退治は「無条件」の命題。そこで生じる「痛み」は覚悟してほしい。パウエル議長の対インフレ、本格宣戦布告は市場を震撼させた。僅か8分で読み上げられた声明文には、これまでの発言に使われた「殺し文句」が簡潔に纏め上げられて並ぶ。
新たな用語は、力で抑え込む(forcefully)くらいか。
しかし、問答無用に淡々と語られると、聞きなれた「パウエル節」が、これほど強いインパクトを与えようとは、マーケットの誰も想定していなかった。
パウエル講演はタカ派的との観測を前提に、株式を「噂で売ってニュースで買い戻す」目論見で動いていたヘッジファンドは「してやられた」と悔しがる。噂で売られ、ニュースで更に売られてしまったからだ。
個人投資家の多くは「逆張りETF」などで株安に賭けていたが、まさかダウ1000ドル暴落までは想定していなかった。火遊びのつもりであったが、大火事になってしまった。多少の逆張りで儲かっても、さすがに恐怖心が芽生え、すくんでいる。
そもそも、パウエル議長が、さすがに言葉には出さなかったが、「市場波乱」もインフレとの戦いの過程で不可避の「痛み」として容認する姿勢は透けている。直近の真夏の株高は資産効果を通じてインフレ過熱要因となりうるので好ましくない、のか?。
とはいえ、自らの発言でダウが1000ドルも暴落するとは、想定外だったであろう、か?真意は分からないが、「パウエル・プット」と言われ、「困ったときのパウエル頼み」との市場の期待を裏切らなかった時代が懐かく語られている。
今週末に発表される雇用統計も、これまでの「市場の常識」が役に立たない。月次の新規雇用者数が50万人以上から、仮に10万人に減ったとしても、パウエル氏は、冷ややかに「過熱する労働市場の正常化の兆し」と受け入れるかもしれない。失業率も3.5%という50年ぶりの低さゆえ、これが5%程度にまで上昇しても許容範囲内かもしれない。
かくして、パウエル氏は、どこまで失業、そして株安を容認するのか。
市場は模索を続けることになろう。少なくも、経済データは「トータルで判断する」と断じ、インフレ鎮静化がトレンドとして確認されるまでは、今後も「異常に大幅な利上げ」を排除しない。インフレの頭打ちが確認できるまでは「より高く、より長く」金利高を続ける。頭打ちの気配だけでは、高金利政策を変えることはない。
更に、市場が恐れるQTについて、今回は触れられなかったことが不気味だ。粛々と月額950億ドルを上限として、実行する計画だが、その引き締め効果は、有意味な前例もなく、やってみないと分からない。
なお、黒田総裁は公式な発言なく、ジャクソンホールを去った。パウエル議長の強烈な先制パンチのあとに、日銀が何を語っても、これまで以上に、金融政策の違いが際立つだけだ。「日銀は永遠のハト」とウオール街では言われてきたので、更なる円売りを誘発しかねない。
ここは「沈黙が金」というところか。