FOMC後の金価格は、概ね、1,930~40ドルの水準で推移している。
一言で言えば、利上げ耐性が強くなったようだ。

 

kitco

以下に詳述するが、FRB議長やFRB高官から、相次いで、利上げペースアップのトークが飛び出しているが、金価格は、下がらず、上げる局面もある。
利上げピッチを速めるということは、インフレがそれだけ進行しているためなので、インフレヘッジとしての金は買われやすい。
但し、市場の期待インフレ率は膠着しているので、ドル実質金利のマイナス幅が縮小しており、金には逆風になる。
とはいえ、実質金利がマイナス圏であることには変わりなく、金は上げやすい市場環境といえる。
ちなみに、3月19日日経朝刊(グローバル市場面)に、筆者の1980年代からの友人、ジョージ・ミリングスタンレー氏のインタビュー記事が載っていた。
筆者より3年、年上かな。SPDRゴールド・シェアの仕事に未だに従事している。
コロナ前にNY出張すると会っていたものだ。(NYMEXでツーショット添付)。

 

ジョージ・ミリングスタンレー氏の豊島氏の2ショット

同氏の、というより、SPDRのハウスビュー(公式見解)はAのシナリオが1,800~2,000(確率50%)、 Bのシナリオが2,000~2,200(30%)。
公式見解らしく、強気でも弱気でもない、どっちもアリという表現。
まぁ、ジョージも組織で働いていると、本音は言えないからね(笑)


なお、円安が進行。
120円突破。その背景の金利差要因は、以下の詳説に含まれる。


さて、以下は中級者向け詳論。
タイトルは、FOMC翌週、パウエル議長、まさかの心変わり


「0.5%幅利上げ支持」。先週16日のFOMCでは、タカ派主導格ブラード・セントルイス連銀総裁一名の反対意見として声明文に記されていたことだ。
それが、週明けには、パウエル議長により自らの見解として表明された。
しかも、0.5%幅利上げ複数回を支持している。
FRB議長、異例の短期間での変心。
その伏線は18日金曜日にあった。
まず、NY時間同日早朝に、ブラード氏がセントルイス連銀ホームページに総裁公式声明文として「反対の理由」を詳説した。
「FRBはインフレ見通しを誤った。」と批判。
「米国経済は労働市場逼迫などで打たれ強い。利上げに耐えられる。早急に政策金利を年内3%以上に引き上げるべき。インフレは低所得層を直撃する。強力な利上げの成功例としては1994~5年の事例が挙げられる。」と持論を展開した。
概ね年内FOMC会合ごとに0.5%利上げとの考えだ。
過去の成功例や米国経済の利上げ耐性は、21日のパウエル発言でも言及されており、タカ派に傾斜するパウエル氏の心の中が透けるようだ。
ブラード声明に呼応するかのように、かねてから0.5%幅利上げ論を支持してきたウォラーFRB理事も、鬨の声を上げた。
「ドットチャートには0.25%と書き入れたが、それはウクライナ情勢が不透明だからだ。経済データは0.5%幅利上げを求めて悲鳴をあげている」とドラマチックな表現で「本音」を明かした。
それでも、この両氏は、筋金入りのタカ派であり、今回のドットチャート(FOMC参加者の金利予測分布図)でも今年末金利予測3%前後に突出した二つのドット(点)があったので、反主流派の極論と解釈もされた。
しかし、その後、市場が「これこそ劇的変化」と驚いた発言が飛び出した。
カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁までが、年内、高圧経済が続くなら1.75%~2%まで利上げも、と言い出したのだ。
最終的には中立金利を僅かながらも上回る水準までの利上げ可能性にも言及した。
同氏は、米国のFEDウォッチャーの間では超ハト派に位置づけられる人物である。
昨年は、2022年利上げ無しと論じていた。
強力な利上げウイルスが想定以上にFOMC内部に転移中、とドクター・パウエルも腹を括ったのではあるまいか。
しかも、当日(18日)のダウ平均株価は、274ドル高で引け、結局利上げを決めたFOMC開催週に5日続伸した。
実態は、商い薄のなかの売り方手仕舞いなのだが、パウエル氏は、市場への影響を最低限に抑えつつ利上げペースを速める自信を持ったのかもしれない。
0.5%刻みの利上げで回数は減らし、利上げサイクルを短期間に切り上げるほうが効果的との読みも考えられる。
劇薬集中投与という荒療治だが、今の米国経済体質であれば、副作用は限定的との治療方針である。
21日の米国市場も、パウエル発言後にダウ平均が400ドル超急落したが、その後は、下げ幅を縮小。結局201ドル安で引けた。
FEDウォッチが示す5月0.5%利上げ確率は57%にまで上昇。
0.25%幅利上げ確率42%を逆転している。


とはいえ、市場は困惑もしている。
FRB議長に、これほどアッサリ見解を変えられると、今後のパウエル発言も、どこまで信じてよいものやら。
同氏は、最近「全てのFOMC会合がライブ」という表現を好んで用いる。
経済・市場環境が変われば、nimble(機動的)に対応するとの姿勢だ。
今回のFOMCは、想定内の0.25%利上げ決定でサプライズもなかったが、実質的な本番は翌週に来るという時間差攻撃に見舞われた。
FRBとの間に、闇討ちはしない、との暗黙の了解があると思い込んでいた市場が甘かったのか。
後々尾を引きそうだ。
市場の視点で、真の敵役は、プーチン氏よりパウエル氏かもしれない。