ロシアによるウクライナ原発 砲撃・占拠により、久しぶりに本当の「有事の金」買いとなった。
 


そもそも、米ソ冷戦の時代に核戦争でも価値は変わらない金が買われたことで「有事の金」と言われるようになった歴史があるからだ。それゆえ、核施設直撃の衝撃は強かった。まさか、と思われたことをプーチンは実行した。その時点で金は1950ドル。
更に、週末、ブリンケン米国国務長官が、ロシア産原油輸入禁止を検討中と発言したことで、原油暴騰が週明け金の上げ材料となった。いよいよ2000ドル接近中。更に、ロシアの貿易最恵国待遇停止も検討されている。
ロシア産原油を禁輸にすると、産油国としてイランとベネズエラが漁夫の利を得る可能性もあるので、米国としても苦渋の決断となろう。


米国内ではバイデン大統領の支持率が急上昇中だ。NBC調査によれば、2月の34%から52%に上がっている。不支持率は50%から44%に低下した。とはいえ、対ロシアの政策対応に決定打を欠く状況では、バイデン氏も素直には喜べまい。これは、市場も認識を共有するところで、マネーの安全資産への逃避が更に加速している。
4日には雇用統計が発表され好調な数字が並び、利上げ論には追い風となったが、市場はほぼ完全に無視した。


米債券市場では、安全資産として米国債が買われた結果、10年債利回りは1.7%台まで下落している。これは金利を生まない金には追い風。
但し、外為市場では、欧米市場で円より安全通貨と見做されている米ドルが買われ、ドルインデックスが急騰。98の大台を突破している。これは金には逆風だが、今の上げ基調ムンムンの市場は無視している。ここに、筆者は一抹の金価格バブル性を見る。

とはいえ、ドル実質金利が下落していることは、極めて強い追い風だ。一過性で終わりがちな有事の金買いで急騰した金価格を高値圏で支えている。市場の期待インフレを示すブレークイーブン・インフレ率(10年)が、直近で2月1日には2.43%であったが、3月4日には2.67%をつけている。対して、米10年債の名目利回りは、1.7%台に反落。結果的に、ドル実質金利のマイナス幅が拡大中なのだ。これは非常に重要。
これは中期的に株などのリスク資産に追い風となる。

 

更に、米国債の逆イールドも懸念され、金の潜在的買い要因だ。
以下は専門的な話になるのでスキップして結構。
米10年債名目利回りが1.7%台に下落するいっぽうで、政策金利に連動する米2年債名目利回りは粛々と上昇傾向を辿り、1.4%台に達している。長短金利差の代表的指標として注目される10年債・2年債の利回り格差(スプレッド)が2月1日の0.63%から3月4日には0.24%にまで縮小してきた。長短金利逆転(逆イールド)がいよいよ照準圏内に入った。政策金利動向を映す2年債利回りは着々とFRB利上げを織り込み、景況感を示す10年債利回りは経済指標悪化傾向のなかで伸び悩んでいることを示すので、株式市場も警戒感を強める。


FRBとしては、資産圧縮プログラムにより保有長期債を売却すれば、10年債利回りも上昇するので、イールド・カーブをコントロール出来る。但し、まずはFRB保有のMBS(住宅担保債券)を減らして、米国債保有配分を増やす方針だ。それゆえ、長短金利差正常化へ機動的に動くことは難しい。


なお、今週10日に2月米消費者物価指数が発表になる。15,16日の3月FOMC前の最後の重要経済統計指標だ。