昨日は日本時間夕方近く、筆者が都内某所でセミナー講演している最中に、市場が激動していた。

ロシア軍の一部がウクライナ国境地帯から撤収との報道が流れ、金価格がアッサリ1880ドル近傍から1850ドル台まで急落していたのだ。(KITCOグラフ、緑線)。

kitoco

株は急騰、原油は95ドル前後から91ドル前後へ急落。
 

筆者が思うに、市場は、原油買い・金買いなど一連の「ウクライナ・トレード」に乗り過ぎたかと反省を始めた矢先のことで、とりあえず、利益確定売りに走り、ポジションも「一部撤退」させ、一服する格好の機会となった。世界中で誰もプーチンの真意など読める人はいない。これだけは断言できる。そこを突かれ、プーチンに攪乱されてきた。市場の本音では、頭を冷やして、今後の運用作戦を見直す機会となった。
 

金に関しては、1850ドルが新たなレンジの下限になるか。
 

それを試すともいえるイベントが明朝に控える。1月FOMC議事録要旨発表だ。その前に、米議会でFRBを巻き込む波乱が生じた。これが、なんとも間が悪い展開だ。米国金融政策が超緩和から引き締めへ歴史的転換期に入る直前に、FRB幹部人事承認が上院銀行委員会で延期されたのだ。ラスキン副議長候補の過去の個人的行動が問題視され、共和党・民主党委員数が12名づつ半々に割れる委員会での採決が遅れている。更に民主党委員の一人が急病で、来月まで回復を待たねばならない。
 

議長、副議長、理事合わせて5名の人事承認が暫時棚上げ状態である。
ラスキン氏を除く4名の承認案を分離して採決する可能性もあるが、政治的に不透明な情勢だ。
 

市場は困惑している。来月のFOMCで、いよいよ歴史的な利上げ第一弾が決定されそうだ。足元では昨日発表の米生産者物価指数が年率9.7%を記録して、サプライチェーンの川上では未だインフレ後続の波が渦巻いていることが確認された。パウエル「暫定」議長が、痛恨の判断ミスで、インフレ対応に関して後手に廻ったとの批判が益々強まっている。タカ派主導格でメディアでも積極的に発言するブラード・セントルイス連銀総裁は「FRBへの信認が問われている」と語った。更に追い討ちをかけるように、個人的株投資問題で辞任したローゼングレン前ボストン連銀総裁などOBたちからも容赦ない発言が飛んでいる。米国財政・金融政策の超インフレ・バイアスを厳しく指摘してきたサマーズ元財務長官の、してやったりと言わんばかりの表情も目に浮かぶ。そのFRBインフレ許容姿勢の旗振り役であった超ハト派のブレイナード現理事・副議長候補も、3月利上げ目前に、複雑な立場に置かれている。ひとつ確かなことは3月発表となる最新ドット・チャート(FOMC参加者の金利予測分布図)のドット(点)数が今回は二つ減り、18から16になることだ。クラリダ副議長とクオールズ理事が辞任して空席となったからだ。最近のドット分布状況を見るに、僅差で割れることが少なくないので、市場も判断が悩ましくなりそうだ。

更に、FRBが今後の金融政策の方向性を明示するフォワード・ガイダンスを出せないことも、市場の混乱に拍車を掛ける。パウエル氏は、例えば国債買い入れについて「最大雇用と物価安定の目標に向けて更なる大きな前進(substantial further progress)を遂げるまで継続する」という先行き指針を設定していた。しかし、今回は経済環境が未体験の領域入りのため、その指針が出せないのだ。株式市場で、決算発表に際し、企業側から次期のガイダンスが出せないような状況を想起させる。結局、パウエル氏は記者会見で、微妙な質問に対して、否定も肯定もしないことで、政策選択肢を温存している。前回1月のFOMC後記者会見では、市場が想定するよりタカ派色が強い政策について否定しなかったことが、実質肯定と市場では受け止められた。最近のパウエル氏はnimble(機動的)という単語を好んで使う。昨年まではpatient(忍耐強く)にデータを待つ姿勢を強調していた。それが、今や、全てのFOMC会合が「ライブ」であり、データ次第で「機動的に、リアルタイムで」決めて行く姿勢に転換した。これは市場泣かせの表現だ。最新の事例では、予定されるFOMC会合以外に、緊急FOMCを招集して追加利上げ決定の可能性まで取り沙汰される。これに対して、パウエル氏が肯定も否定もしない曖昧さを残す表現を使えば、かなりのサプライズ要因となろう。
 

まずは、今夜発表の1月FOMC議事要旨発表が、異例の注目度を浴びている。前回12月FOMC議事要旨発表では、市場が想定していた以上のタカ派への傾斜が確認され、その結果、1月6日の日経平均まで844円安の急落を演じる結果となった。FOMC議事要旨が、これほど日本株にまで直接的影響を与えることも珍しいが、今後は日常茶飯事になるのだろうか。日米両市場ともに日本時間明朝の同発表に身構えている。

 

さて、連日の市場大荒れで、実質徹夜の日々が続いている。といっても、筆者は慣れているので、昼間はじっくり昼寝(笑)。昼夜逆転の生活環境。日中にセミナー講演が入ると、さすがに睡眠時間が減りきついが、週末の爆睡でバランスとっている。健康に注意せよとの周囲からの警告も受けるが、仕事量はコロナ・モードでかなり減らしている。筆者の仕事の最もキツイ部分は講演などで話したり書いたりすることではなく、その前段階の情報収集だ。40年間のマーケット生活で構築した世界に広がる人的ネットワークをフル稼働させ、メディアからもデータを集めることは、かなり根気と時間を要する。
 

その結果、頭の中がキッチリ整理されていれば、話すことや書くことはストレスにならない。更に、最近のマーケットは実に人間臭くて面白い。へたなドラマや映画などより、はるかにリアルでエキサイティングで、アドレナリン全開。続編見たさに連日、市場をフォローしているようなものだ。個人事務所の自由度の有難みを噛み締めているよ。

 

それから、オンライン・セミナー告知。
2月21日 主催 東京商工会議所
ここの台東支部は、御徒町の宝飾業が多く、仕事柄、長く馴染んできたところ。これまでは対面で懐かしい面子が多かったが、さすがに今回はZOOMで↓。
https://event.tokyo-cci.or.jp/event_detail-109269.html