1850ドルの上値抵抗線を突破した国際金価格は、多少1860ドル前後を行ったり来たりした後で1870ドル台まで続騰。
年率7.5%という40年ぶりの米国インフレという事態に比し、未だ1870ドル程度か、という見方と、今後7回もの利上げが見込まれるわりには、1870ドルという高値水準が維持できている、との評価と市場では割れる。
目先の注目イベントは16日発表の1月FOMC要旨発表。その理由を以下に長々と書いた。また「金利」という分かりにくく、つまらない話なので、興味ある人は読んでみて。
 

14日の米国株価は、ラブロフ外務相が「対話の道は開かれている。常に合意のチャンスはある」とプーチン大統領に進言したと伝わり、寄り付き前の時間外で、ダウ先物が300ドル超の前日比マイナス圏から一気にプラス圏に浮上。その1時間後にはブラード・セントルイス連銀総裁が経済テレビ局に生出演。20分以上喋り続け、ダウ先物は再びマイナス圏に反落した。
同氏は、2022年早期利上げ説を昨年来、論じ続けてきたが、今や3月利上げほぼ確定の流れとなり、「私の説に(FOMCが)寄り添ってきた」と胸を張る。そもそも、昨年秋以来、(政策金利に連動する傾向が強い)2年債利回りは、100ベーシス(1%)も急上昇した。市場は既に1%の利上げを織り込んだわけだ。米消費者物価指数も、ここ4か月ホットな上昇が続き、インフレは加速中といえる。それゆえ、7月までに100ベーシスの利上げでも、市場は混乱しないだろう、と持論を展開した。3月、5月、6月、7月と4回連続0.25%幅の利上げか、3月に0.5%幅と、あと2回の0.25%幅か、含みを持たせる。その間に、ウクライナ情勢がエスカレートすれば、どうなるとの質問には、マクロ経済的には、ウクライナ情勢の影響は欧州経済には強いが米国経済には距離感がある、と語った。政治的にはウクライナ問題は重要だが、経済的には金利が肝要と説く。ウクライナ不安でも利上げは強行する姿勢と市場は受け止めた。
米国の高圧経済に対して、もはや緩和剤は不要で急ぎ除去すべき。今現在、未だ、量的緩和が縮小規模でも継続していることに苛立ちさえ露わにする。
 

この点に関して、対照的な意見を述べたのがデイリー・サンフランシスコ連銀総裁(ハト派)だ。先週末の地上波討論番組で、「もはや金融緩和的要素は取り除くべきであろう。サプライズ要因がなければ3月に利上げとなろう。その後の利上げに関しては、会合ごとに状況を点検しつつ慎重に決めてゆくべき」と述べた。
なお、同氏は今年のFOMCで投票権は持たない。
 

筆者が聞いてみたいのは、ウイリアムズ・ニューヨーク連銀総裁の見解だ。同地区連銀は常任で投票権を持ち、別格扱いだ。しかも同連銀が発表した月次の消費者調査によれば、1年後の期待インフレ率が12月の6.0%から1月は5.8%に低下している。これは2020年10月以来の現象とされる。特に、食料品、ガス、家賃、医療費などの価格上昇が鈍化すると見ている。それでも、コロナ前の物価水準よりは高い。ウイリアムズ氏はハト派なので、ブラード氏の見解に比しかなりの温度差がありそうだ。
 

同じくハト派の主導格であったブレイナード新副議長も、未だ、人事が議会未承認ゆえ、公的発言は控えているようだ。議会公聴会では、指名したバイデン大統領を意識してか「インフレには断固対応する」とタカ派的ニュアンスで語っていた。これまでは筋金入りハト派とさえ言われてきた同氏の本気度が問われそうだ。
なお、利上げと同時に議論の俎上に上がるQT(FRB資産圧縮)については、償還期が来た保有債券分を再投資せずFRB資産規模を自然減に任せる消極的圧縮派と、アウトライトに保有債券を売却する積極的圧縮派に分かれる。圧縮規模については、2022年5000億ドル、2023年1兆ドルなどの予測が市場には流れるが、現時点では白紙の状態である。圧縮開始時期も、年央から年後半まで、意見は割れる。市場が最も嫌うシナリオは、利上げとQTの同時全速進行だ。この合わせ技は、市場心理を委縮させる。
更に、長期債の保有減らしを優先させれば、10年債利回りが上昇するので、長短金利差縮小に歯止めを掛け、景況感悪化の兆しとされるイールドカーブ平坦化を是正する効果を期待する意見もある。
 

総じて、メディアで積極的発言を繰り返すFOMC参加者は、おしなべてタカ派だ。ジョージ・カンザスシティー連銀総裁とボスティック・アトランタ連銀総裁の二人の発言が特に目立つ。対して、ハト派は概ね沈黙を保っている。仮に発言しても、過激ではないので、見出しにはなりにくい。その実態は、16日に発表される1月FOMC議事要旨で明らかになる可能性がある。例えば、「幾人かの参加者は、各会合ごとに慎重に決断すべきと述べた」というような記述があれば、FOMC内でハト派も隠然たる勢力があることが検証できよう。
12月FOMCの要旨発表では、想定以上のタカ派姿勢が確認され、「FOMCサプライズ」により、1月6日の日経平均が844円急落した経緯も未だ記憶に新しい。それゆえ、今週のメイン・イベントの一つと見られている。
 

さて、昨日は、近所の診療所から、「ファイザーワクチン、キャンセルあるよ」と電話が入り、いそいそと出掛け打ってもらった。今回も、翌朝は左手が50肩みたいに上がらない。すっかり慣れた。
本日は、また、対面セミナー。大きな会議室で数名相手に話す。
ところで、昨年末、恒例の経済俱楽部での講演録が届いた。長い歴史ある俱楽部で、4395回目の講演。ここは、90分の講演と質疑応答をそのまま全文書き起こし、毎月印刷して会員に配布する。自分の生の発言が、そのまま活字にされると、私って、こんな口調で喋っていたの、と今更ビックリ(笑)
なお、本日、産経新聞朝刊に金について寄稿している。

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