そもそも「有事の金」という表現は、米ソ冷戦時代に、スイスで、核戦争から財産の金を守るために、家庭用シェルターに金塊を保管したことから始まる。
しかし、ベルリンの壁が崩壊して、米ソ冷戦が雪解けとなるや、有事の金より有事のドルとなり、欧州主要中央銀行は相次いで、公的保有金を数百トン単位で巨額売却に踏み切った。その結果、金価格は250ドル(グラム900円台)まで暴落した。
しかし、今や、ウクライナ問題をきっかけに米ロ冷戦が地政学的リスクとして意識され、有事の金買いに復権の兆しが見える。
米国防総省は2日、ドイツ、ポーランド、ルーマニアに計3000人派遣と発表した。
くしくも、この3国では、外貨準備として保有する金について、これまでに様々な事が起きている。
まず、ドイツでは、公的保有金を「ロシア侵攻に備え」と明確に理由を説明して、NY連銀、イングランド銀行、フランス国立銀行に分散保管していた。ところが、国民から、海外保管金塊が本当に数量通りに保管されているか、本数・重量を確認せよとの運動が起き、巨額の金塊をフランクフルトに戻した。保険の関係で飛行機1機に積める金塊の量はせいぜい2トン程度。それゆえ、史上最大の金塊輸送作戦となった経緯がある。
次にポーランドは、2019年に外貨準備として100トンもの金を購入した。その頃でも、国境近くで米軍と共同軍事演習を行うなど、ロシア侵攻を意識した動きがあったことと呼応する。
そしてルーマニアは2019年に国会が、中央銀行保有金(103トン)のうちで、イングランド銀行に保管していた61トンを自国に戻すことを決めた。有事に機敏に金を動かせるための措置と見られる。
筆者は、有事の金で金価格が上がっても、短命で終わるから、慌てるな、と説いてきた。有事の金という表現は、人の心を怪しく動かすので、セールストークに使われるからだ。有事になってから金を買っては遅い!平時から金を地味に買い増して、有事には必要なら売って現金化して凌ぐのが、本来の意味である。