今年最大級のマーケットイベントである12月FOMCが12月14~15日の日程で開催されている。
日本時間16日早朝に声明文とパウエル記者会見が開催される。
今回のFOMCは、米国金融政策の方向転換を議論する場なので、特に重要だ。具体的には、金融緩和から金融引き締めへの転換だ。
それゆえ、英語では”Powell Pivot”パウエル氏の方向転換がキーワードになっている。
テーパリングは量的緩和(QE)の縮小で、あくまで緩和策だが、次に控える利上げは引き締め政策となる。
更に、その後には、量的引き締め(QT)がある。
FRB資産圧縮とも言われるが、米国債や住宅担保債券などの巨額購入で8.5兆ドルまで膨れ上がったFRBの資産規模を正常に戻すことだ。
但し、これは、まだ先の話。
今回、方向転換と言われるのは、雇用と物価という二つの目標があるFRBが、これまでの雇用重視から、物価安定に軸足を移すからだ。
雇用面では、失業率が4.2%まで下がってきた。
労働参加率低迷などの問題は残るが、相対的には、失業より、インフレのほうが重要になってきた。
くしくも、14日には、11月米国卸売物価指数が年率10%に接近するという39年ぶりの出来事があった。
卸売段階の価格急伸は、早晩、消費者に転嫁されることになる。
いよいよ、待ったなしのインフレ対策が急務なのだ。
バイデン大統領も来年の中間選挙ではインフレが庶民のレベルでは大きな経済問題ゆえ、かなり神経質にインフレ退治策を繰り出している。
FRBにも政治的圧力がかかりそうだ。
そもそも、パウエルFRB議長は、つい最近、バイデン大統領により、再任されたばかりである。
市場は、インフレを視野に、FRBが2022年3月にはテーパリングを予定より早く切り上げ終了させ、最速5月には一回目の利上げ。
更に年後半には二回目、三回目の利上げ、そして2023年にも3回の利上げを見込んで織り込みつつある。
インフレが当初の想定よりかなり長期化するとのパウエル見解のピボットがあったからだ。
即ち、先日の議会証言で、これまで使ってきた「インフレは一時的」との表現を、今後は使わないことを明言した。
更に、テーパリングについても「予定より2~3か月早く切り上げる」可能性に言及した。
これは、まさにピボット=方向転換なのだ。市場では、パウエルFRBがハト派からタカ派に変身したとも言われる。
但し、FRBは利上げによって、民間過剰消費を抑えることは出来ても、サプライチェーン混乱による物価高を封じ込めることは出来ない。
ここに、供給サイド由来のコストプッシュインフレ退治の難しさがある。
パウエル氏自身も、生産制約によるインフレは、来年後半には鎮静化すると多くの専門家が見ているようだが、その保証はない、と議会で明言した。
異例の発言である。
更に、ハト派の主導格であるサンフランシスコ連銀デイリー総裁までが、現在進行中の物価急騰はeye popping目玉が飛び出ると表現して、タカ派への転向を示唆した。
かくして、12月FOMCでの議論もヒートアップしそうだ。
その前座ともいえる11月卸売物価上昇率、10%接近の報で、国際金価格は1,760ドル台まで下げたのち、反騰している。
二桁インフレともなれば、インフレヘッジとしての金の出番だが、その経済対策として2022~2023年に6回も利上げされるのでは、金利を生まない金には強い逆風となる。
結局、インフレ進行と利上げ進行のスピード競争。
インフレ進行のほうが速ければ、ドル実質金利のマイナス幅は拡大して金価格は1,900ドルへ。
利上げ進行のほうが速ければ、ドル実質金利のマイナス幅は縮小して金価格は1,600ドルへ。
マクロ経済の視点では、パウエル議長が利上げでインフレを封じ込め、過熱もせず冷えすぎもしない適温経済(ゴルディロックス)を実現させれば、FRBへの信頼性は維持される。その場合は、金は売り。
しかし、この未曽有の難しい海図なき航海で、パウエルFRBが判断を誤り、インフレが制御不能になれば、金は買い。
危うい綱渡りを強いられるFRBの金融政策により、金価格動向が決まる。
なお、以上は、2022年にかけての話だ。
多くの個人投資家は、老後など10年以上の視点で、金ETFを積み立て感覚でじっくり買い増しているので、FOMCのドタバタは高みの見物で、一喜一憂する必要はない。
数十年の間には、インフレもあれば、デフレもあろう。
その経済の変動のなかで、実物資産=金が持つ希少性による独自の価値が、ポートフォリオのなかで重要な資産になるのだ。
FOMCは、経済のお勉強として、格好の材料を提供してくれているので、ここは、じっくり学ぶ機会であろう。