28日、上院議会公聴会で民主党急進左派のエリザベス・ウォーレン上院議員は「パウエルさん、貴方の銀行監督は緩い。貴方は危険人物だ。FRB議長職再任に反対する」とまで言い放った。
これは極端な事例としても、市場のパウエル氏への評価が揺れていることは事実だ。
特に、市場の関心が「利上げ」にシフトすると、パウエル議長は、これまでの「市場の守護神」から「市場の敵役」に転じる可能性がある。
特に「インフレは一時的」と繰り返し主張してきたパウエル氏の情勢判断が誤っているのではないか、との疑念が強まっている。
パウエル氏の言動にも若干ブレが出始めた。
28日の公聴会でも、パウエル氏の発言は、これまでとややトーンが変わった。
「西海岸の港湾ひっ迫など、想定を超える供給制約要因が生じて、その影響が想定外に長引いている」と、丁寧にサプライサイドのインフレ要因について説明したのだが、最後の締めに使ってきた「それでもインフレは一過性」との但し書きを飛ばし、言葉を濁す一幕もあったのだ。そもそも量的緩和の縮小(テーパリング)で過剰流動性によるインフレは抑え込めるが、供給制約要因をFRBが制御することは出来ない。
生産コスト上昇を消費者に転嫁できるか、という問題も、業者間の力関係により様々な事例がある。
「国際商品価格の急騰」という論点も、商品市場特有の問題が判断を難しくしている。
まず、「コモディティ」という範疇が細分化されていること。
原油、食料品、産業用金属など、それぞれ独自の需給要因をかかえ、日々の値動きは、上がるものもあり下がるものもあり、バラバラである。
28日も今話題の原油先物価格は反落した。
銅・ニッケル・亜鉛・鉄鉱石・トウモロコシ・大豆・小麦・木材なども価格を下げている。
商品先物市場という投機的な場で価格が決まるので、思惑で価格変動幅が増幅される。
とはいえ、日々の値動きはばらつくが、年初来では価格上昇率が顕著だ。
しかし、感染が落ち着くなど、ひとたび潮目が変われば、商品価格も一気に振り出しに戻りかねない。
「インフレは一時的」といっても、それが3か月か6か月か、あるいは1年か。
現在、世界の市場で正確に見極められる人はいない。
パウエル議長だけが「占いの水晶玉」を持っているわけではない。
その意味では、市場がパウエル議長に頼り過ぎている面も否定できない。
そして、今回、株安の引き金を引いた米10年債利回り1.5%超えも、今後1.8%程度まで続騰するか、再び1.3%程度まで反落するか、見方は分かれる。
そもそも年初にはコロナ収束・経済再開を見込み1.8%から2%を予想する専門家が多かったのに、実際には1.2%台まで低迷した経緯があるので、プロの間でもトラウマが残る。
このような極めて視界不良の市場環境で、株価やドルが揺れている。
金利を生まない金は、やはりドル金利が上がると、売られた。
しかも、外為市場ではドル高・円安(久しぶりの111.50円)。
円建て金価格の下げは為替要因で相殺された部分もある。
NY金市場は時間差攻撃の金売り攻勢だ。
それでもインフレ懸念は根強いので、1,730ドル台で「とりあえず」下げ止まった感がある。
短期的地合いは脆弱だ。