「9月は株が売られやすい。特に今年は9月17日が要注意日だ」
こう予言していたのは米CNBCの人気投資家ジム・クレーマー氏。
高値圏で推移していた米国株への警鐘であった。
17日からの週には、FOMCも開催され、更に、市場では「財政上限問題」も切迫視されている。同氏以外にも、高値圏から10%程度の調整は不可避との見解は多く語られてきた。
恒大問題は、数年前から経営不安説が流れ、ここ数か月では、「債務不履行の可能性」が広範に論じられてきた。今や最も空売り残高の多い銘柄のひとつとさえ言われる。既に陳腐化の感さえあるこの材料に週明けの市場が改めて強く反応しているのは、いよいよ23日が一部債務返済期限として重視されてきたので、切迫感が増したためであろう。短期空売り投機筋には格好の売り口実を提供した。21日のダウ平均も一時は900超まで売り込まれたが、その後、買い戻しが入り614ドルで引けた。
基本的に流動性危機だが、中国社債市場でドル建て債務も含めデフォルトも懸念され始めた段階だ。
とはいえ、市場は未だシステミックリスクを真剣に懸念するまでには至っていない。広範囲でマージンコール支払いのため他の保有資産まで売却する「信用収縮の世界的連鎖」は未だ見られない。
より現実的なシナリオとして懸念されるのは、中国の不動産セクター全体への波及だ。そもそも不動産は中国人個人資産のコアを占める。不動産価格下落は、負の資産効果により、既にデルタ型ウイルスにより委縮している中国人の消費に大きな打撃となるは必至だ。
直近発表された中国のマクロ経済指標も、デルタ型不安の影響を色濃く映して悪化している。
更に同社関連の「理財商品」を購入した個人投資家たちが、本社に乗り込む騒動に発展している。今回ばかりは習近平政権も、個人投資家に痛みを共有させ、投資の損失は政府が補填してくれることを期待するモラル・ハザードを回避する姿勢だ。
とはいえ、市場が読み切れないことは、「大きすぎて潰せない」と見られてきた恒大集団を、今回は本当に見切る気か、ということだ。
相次ぐ中国大手民間企業締め付け強化の一環なのか。しかし、恒大集団の場合は、巨額債務が、単に銀行融資・社債だけではなく、納入業者、マンション購入者など極めて複雑な構図になっている。一般社会への影響ははかり知れない。「管理されたデフォルト」に導く姿勢も、危うい賭けである。習近平流の強権政治も、「儲けたい」という人間の欲まで抑え込むことは出来なかった。
なお、万が一、恒大集団を見切るにしても、その場合は、中国人民銀行の緊急流動性投入や、官主導の業界再編即ち不動産業界の大手他社に恒大支援を要請するなど、経済ショックを和らげるため、強力な政策が発動されることは間違いなかろう。「中秋節」で上海市場が明日まで休場であることは、当局の時間稼ぎの機会にもなり得る。ヘッジファンドのなかには、そこまで読み、押し目買いの動きも見られる。
この時期、中国で好んで食される月餅の味も今年はほろ苦い。
金は1760ドル台。やや買われた程度、というか、売られなかった。
仮に信用収縮が拡大すれば換金売りの波に巻き込まれない。その意味で金価格は恒大ショック深刻度をはかる先行指標だ。