8月米雇用統計が今晩発表される。
今週の市場では、このビッグ・イベントを控え、ポジションを整理する動きが目立った。
特に、今回の雇用統計への注目度が高いのは、テーパリング(量的緩和縮小)の発表・開始時期の決定要因になり得るからだ。
当初は、今晩発表の8月雇用統計次第で9月FOMCにてテーパリング決定との観測が市場には流れていた。
ウォラーFRB理事の「7月と8月の雇用統計で非農業部門新規雇用者数の力強い増加継続が確認されれば9月FOMCで発表、10月には開始の準備は整うだろう。
そうでなれけば、数か月先送りされることになろう。」との発言などが根拠とされた。
総じて、FOMC内タカ派は、金融緩和から引き締めへの本格転換となる利上げを重視している。
テーパリングは、その前座扱いで、早々に片付け、利上げ議論に時間をかけるべし、との考えである。


しかし、ジャクソンホール会議でのパウエル講演後は、11月発表、12月或いは来年1月開始説が強まっている。
例えば、ハト派の代表格で、次期FRB議長候補として一部で名前も挙がるブレイナードFRB理事は、9月雇用統計を見て決める意向に言及している。
9月雇用統計は10月に発表されるが、10月にFOMCは開催されない。
従って、最短11月FOMCで決定の可能性を示唆したことになる。
ハト派が9月雇用統計にこだわるのは、同月に、学校再開状況が明らかになり、離職して子供の世話をする女性労働力の復帰が見極められること。
更に、同月には、失業保険追加支給の多くが期限切れになる、などの理由がある。
一般論として、労働参加率がコロナ前の水準に戻らないことは、雇用面でテーパリングを遅らせる要因の一つだ。
但し、ベビーブーマー世代の退職など構造的問題も影響しており、労働参加率改善まで待つと、政策対応が後手に廻るとの意見も根強い。


とはいえ、前回の経済回復期に雇用回復を過大評価して利上げを急ぎ過ぎた、とのトラウマも残る。
今回の難題は、変異種猛威の雇用への影響の見極めだ。
8月に入り、デルタ懸念で米国主要経済指標が軒並み悪化している。
雇用統計が、この悪い流れを断ち切ることが出来るのか。
9月1日に発表されたADP民間雇用統計は、事前予測が60万人台のところ、37万4千人と大幅に下振れした。
本日発表の雇用統計を本番とすれば、前座扱いされがちな民間雇用統計だが、あまりの誤差に市場はいぶかった。
ところが、2日に発表の新規失業保険申請件数は前週比1万4千件減の34万件と、昨年3月以降の最低を更新した。
雇用統計は遅行指標だが、毎週発表される失業保険申請数は先行指標と位置付けられる。
経済はデルタ型リスクへの耐性を醸成しつつあるとの楽観論が勢いを得てきた。
8月雇用統計の非農業部門新規雇用者数は、過去2か月90万人以上が続いた後で、直近のデルタ型の悪影響を考慮しても、70万人程度の数字が出れば、市場の想定内とされよう。
対して、仮に、ADP民間雇用統計のように、大幅な下振れとなれば、市場内のデルタ型懸念が強まり、量的緩和縮小の早期開始を織り込みつつある市場は、テーパリング・トレードの巻き戻しを強いられよう。


国際金価格は、教科書通りなら、雇用統計下振れ→テーパリング先送り観測→テーパリング観測で売られた金の買い戻し。
上振れは、その逆、となるはず。
しかし、最近の相場は教科書通りに動かないこともしばしば。
投機筋の思惑は蓋を開けてみたいと分からない。