FOMC後、1,810ドルまで急落

kitco

 

 

金融緩和から縮小へ、市場の流れが変わるサプライズFOMCとなった。
利上げについて、これまでパウエルFRB議長は「考えることを考えたこともない」と語っていたのだが、今回の記者会見では「話し合うことを話し合う」と明言した。
更に「FRBのインフレ期待感」については、日本の長期停滞を具体例として挙げ、原油急騰など短期要因ではなく長期動向が重要と語った。
前回のFOMC以降に消費者物価指数急騰などの過熱要因が顕在化しているが、「それでもインフレは一過性」との見解を変えなかった。
同時に発表されたFRB経済レポートでもFOMC参加者が予想するインフレ率の中間値を前回の2.4%から3.4%に引き上げた。
GDP成長率予測も7%と上方修正した。
長く低インフレ体質に慣れ切った市場の感覚では、バブルを想起させる数字だ。
ヘッジファンドは、年内なら、インフレ・トレード(インフレを前提にした短期運用)継続だ、と意気込む。
但し、FRBは2022年は、GDPが3.3%、インフレ率は2.1%への下落を見込む。
年内から来年にかけ、かなりの市場変動を覚悟せよ、とのメッセージとも読める。
FOMC参加者の金利予測分布を示すドット・チャートでも、2022年利上げ予測派が前回4人から7人に増加。
2023年については、利上げ予測が18人中13人で、しかも利上げ回数の中心値は2回となっている。
FRBがタカ派(金融引き締め支持派)に転向した感がある。


とはいえ、パウエル氏は、発言にヘッジもかけている。
曰く「ドット・チャートは時に外れるものだ。FRBも民間も経済予測は誤ることがある」。
開き直りの如き表現だ。
分かり切ったこと故、余計な一言に聞こえた。
中央銀行のトップから、ここまで明確に予測の限界を明示されてしまうと、市場の不透明感が強まる。
ドット・チャートに対する市場の異常なまでの注目度に対する警鐘とはいえ、誰も肯定も否定も出来ない状況は、短期投機筋に「いいここ取り」出来る機会を提供する結果になる。


なお、これまでテーパリング号砲の機会として注目されていた8月ジャクソンホール中央銀行フォーラムは、機先を制された感があり、市場の関心は、量的緩和縮小の具体的時期と縮小量に集まる。
パウエル氏も記者会見で、前年同期比物価上昇率急上昇のかなりの部分は、前年の低水準との比較という「ベース効果」による。
更に、中古車価格急騰など限定的な現象の影響も強い、と述べていた。
ベース効果が薄れる7月以降の物価上昇率がより現実に近い数字といえよう。
そこを確認したうえで、9月FOMCでテーパリング決定。
早ければ年内開始とのシナリオが現実味を帯びてきた。
パウエル氏は繰り返し、十分に時間を取って予告したうえで、市場の混乱を避けると明言してきた。
記者会見では、それを、どのようなかたちで実現させるのか、との質問も飛んだ。
FRB副議長や理事たちに講演を通じてアクション・プランの検討事例を語らせるのか。


いずれにせよ、ある日、突然、「xx月からxxドル相当の縮小を開始する」と発表するわけにもゆくまい。
最近、FOMC参加者が好んで使う表現が「忍耐強く」(patient)という単語だが、市場は忍耐が苦手だ。すぐに焦れる。
テーパリング発表・実行のスピード感も極めて重要である。
金利を生まない金にとって、利上げが具体的にしかも想定より早く視野に入ってきた。
しかも、市場は、利上げを織り込み、ドル金利上昇=ドル高である。
これも国際金価格には売り要因。
但し、円安は国内金価格には上げ要因。
筆者にとってもサプライズであった。
下げ相場がどの程度継続するのか要経過観察である。