アルケゴスの実態、パウエル議長が看破

パウエルFRB議長が、11日米国地上波三大ネットワークCBSの「60ミニッツ」という、時の人を招く1時間番組に出演。キャスターの質問に答え、喋り続けた。FOMC後の記者会見や議会公聴会より遥かに発言の内容が濃く、情報量も格段に多い。米国FEDウオッチャーたちは、時間をかけジックリと長文の対談書き起こし原稿を精査している。


注目のアルケゴス問題も、キャスターからの質問に答え、その実態を具体的に説明した。
「問題視されている株スワップは、市場で普通に使われている売買手段」と断じたうえで「そのリスクを銀行は理解しているはずだ。各銀行が承知していなかったのは、この一人の投資家(ホワン氏という実名は出さず)がNY市場の5-6社と株スワップ取引をしていたことだ。各銀行は、その事実を、担保不足による強制売却処分の段階になって初めて知った。」
「率直に言って、驚くべきことだが(パウエル氏の、このような言い回しは極めて珍しい)、一人の個人が、リスクは理解しているはずの大手金融機関に巨額の損失を生じさせた。徹底的に調査する。」


これまで欧米メディアも、関連大手金融機関は、3月25日に電話会議でホワン氏から債務不履行状態であることを告げられた段階で、初めて、複数のライバル社の関与を知った、と報道してきた。それを裏付けるパウエル発言である。
「匿名性」という、このデリバティブ商品の特性により、ライバル銀行もホワン氏の取引残高が巨額に膨れ上がっていたことを察知できなかったわけだ。


報道では、モルガンスタンレーのアルケゴスとの取引残高は円換算で2兆円超。ゴールドマンサックスは1兆円超といわれている。
そして、アルケゴス関連銘柄売却処分は未だ終わっていない可能性も浮上しつつある。
今朝、アルケゴス銘柄の一つである、メディア運営のディスカバリー株をクレディ―スイスが売却との報道が時間外で流れたのだ。
「まだ残っていた、あるいは、残っているのか」
市場は疑心暗鬼である。


更に、今日はゴールドマンサックス、16日にはモルガンスタンレーの決算発表を控える。アナリストからアルケゴス関連の質問が飛ぶは必至だ。
特に、問題視されているのはモルガンスタンレー社のアルケゴス対応だ。
3月22日、同社が主幹事となるバイアコムCBS増資が発表され、同社は投資家に増資株を売り捌いた。
その増資発表から3日後の25日に、先述の事態急変によりアルケゴス問題が発覚。


やはり報道によれば、真っ先に、「抜け駆け」でアルケゴス銘柄大量売却の口火を切ったのも同社であったという。
結果的に、1週間で、バイアコムCBS株価は増資直前の100ドル台から40ドル台にまで急落した。その株価下落から生じる損失を抱えたのは、モルガンスタンレーなのか、投資家なのか。
同社社内の増資担当の引き受け部門と、アルケゴスとの直接取引を担当するプライム・ブローカー部門の間に情報の共有はなかったのか。
「抜け駆けか否か」は未確認だが、同社の内部リスク管理体制は厳しく問われるであろう。


なお、興味深いのは、大手金融機関との相対巨額取引(ブロック・ディール)で買い手に廻ったのがヘッジファンドであったこと。ブロック・ディールでは売り手が割安の価格を呈示してくるので、買って、その後の価格反発期に売り抜こうとの目論見である。
一定の損失は覚悟のうえで、買い手に廻るファンドもあるという。後日、モルガンスタンレーが別件のIPO主幹事になるとき、当該IPO株を廻してもらえる、との期待があるようだ。


過剰流動性を持て余す市場環境のなかで生じたアルケゴス問題を利用して、更に一儲けを目論むヘッジファンド。、貪欲なリターン追求は限りないようだ。

金チャート

さて、昨晩のNY金市場は、3月米消費者物価指数発表後、1725ドルから1750ドルまで急反発。(KITCO24時間グラフの緑線)。


年率2.5%の急上昇は想定内であったが、ドル長期金利が下がったのはサプライズ。金市場は、ドル金利急騰に身構えていたが、肩透かしというか、逆を突かれ、金利上昇を見込み金を空売りしていた連中は、慌てて買い戻しに走った。なお、中長期的には物価上昇はインフレヘッジとしての金には買い要因となる。


更に、ジョンソン&ジョンソンのコロナ・ワクチンが暫時接種停止に。
600万人超接種したところ、18歳から46歳までの女性6名に血栓。一人重体。冷静に見れば、100万分の一の確率で、その程度は覚悟のうえなのだが、実際に起こってみれば、心理的影響は無視できず。接種拒否が増えるリスクも。市場は、ワクチン相場で、すっかり経済回復を見込む「陶酔相場」のなかで米株価は史上最高値更新していたので、冷や水浴びせられた感じ。ファウチ氏ら関係者は火消しに追われた。これは、金にとっては買い材料となる。ドル金利が上がらず下がったのも、安全資産として米国債が買われたという要因もある。外為市場では米金利安のドル安。これも金買い要因。


このワクチン問題。日本にとっても他人事ではない。仮にワクチン接種が拡大する過程で、一人でも副反応死亡例など出たら、ワイドショーはじめ大騒ぎになるは必至。1億人に接種接種、それも2回接種が含まれる、となれば、統計的にも副反応が出るのは当然だが、メディア含めヒステリックになる傾向が懸念される。米国の場合は、対コロナを「戦時態勢」と位置付けているから、多少の犠牲はやむを得ないとの構えだが。