米量的緩和縮小(テーパリング)のリスク

「ブルーウエーブ期待」の高揚感に埋もれた感はあるが、6日に12月FOMC議事要旨が発表された。
そこでは、テーパリング(量的緩和縮小)の可能性についての議論が明示されている。
極めて慎重な表現だが「量的緩和の政策変更に際しては、十分な条件が満たされることが必要。更に、その発表も、かなりの予告期間が重要」と、念には念を入れて2013年のバーナンキショック再来のリスクだけは回避するとの強い意向が滲む。
更にテーパリングについては「2013-14年の時のような流れで実施されよう」とも記されている。すわ、バーナンキショック警戒予告かと身構えてしまうが、「前回同様に、極めて緩やかなペースで実行する」との意思表示なのだ。
とはいえ、かつ、市場も覚悟の上だが、量的緩和の出口は不可避だ。
ブルーウエーブにより、民主党主導で、兆ドル単位の財政支出上乗せが実行されれば、年後半には、かなりの経済回復が期待できる。
パウエルFRB議長は努めて悲観的に経済見通しを語り、金融超緩和継続の必要性を説くが、ここにきて、米国経済指標には好転の兆しも見え始めた。
特に12月ISM製造業指数が67に急騰。同サービス業指数も57.2と高水準を維持した。
更にインフレ期待を示す指標であるBEI(ブレークイーブン・インフレ率)が2年ぶりに2%の大台を突破したこともウオール街で話題になっている。
商品市場ではCRB商品価格インデックスに上昇傾向が顕著だ。産業素材部門は2年半ぶり、食料品部門は3年半ぶりの高水準を記録している。
直近に発表された11月米国貿易赤字も、681億ドルと約10年ぶりの高水準だ。旺盛な消費意欲により、輸入が輸出を上回る状況である。
このうえに、更に、兆ドル単位の財政投入が実行されれば、コロナ接種進行次第だが、年後半のFOMCで「テーパリング」がより深く議論される可能性が、少なくとも絵空事とは言えまい。
このような経済環境を察してか、8日には、ハーカー・フィラデルフィア連銀総裁が「テーパリングは少なくとも今年年末まで起きる可能性は低い」と微妙な言い回しで質疑応答中に発言した。勿論「ウイルス次第で、最大限の慎重感で検討されるべき」と厳しい条件を付している。
ボスティック・アトランタ連銀総裁も4日に、「コロナ接種普及により経済が好転すれば、年内のテーパリングもあり得る」と語っている。

株式市場は、いまや「ブルーウエーブ祭り」の様相だ。まずは蜜月期間のバイデン・リフレを囃して株価は上昇中である。バイデン増税も気になるところだが、そこは、パウエル議長が追加量的緩和で助け舟を出してくれるとの期待感が強い。特に、ジャネット・イエレン次期財務長官とジェイ・パウエルFRB議長の「阿吽の呼吸での連携」が心の支えになっている。
しかし、財政政策と金融政策の一体化も、やり過ぎれば、出口議論が市場に冷や水を浴びせるリスクが生じる。
年前半は市場もFRB頼みだが、年後半には、FRBが市場の敵役に転じるリスクにも留意すべきであろう。
バーナンキショックの再来ともなれば、金も換金売りに晒された後に、株安で買い直されるシナリオが想定される。

さて、国内はいよいよ非常事態宣言。私見だが、タイミングが遅いし甘いね。根本的に法的措置で人流を2か月は絶たないと、持続的回復は困難と見る。それが抜け穴だらけの緊急事態対応だ。外国とのビジネス交流も一旦は全面入国禁止としたが、首相の判断とかで、一転、緊急事態中も認めることになった。変異種入国増加は必至。緊急事態対応は、経済より人命重視のはず。医療は既に崩壊した。5000人も入院調整中?飲食業への協力金も必要だが、コロナ最前線の看護師さんとかの月給に100万円払ったって良いと思う。それに見合うリスクをとって働いている。グリーンエネルギーとかデジタル分野への本格財政投入は、コロナに目途がたってからの話でしょう。それから東京五輪は早いとこ中止決定したほうが結果的にはダメージを最小限に抑えられる。どう考えても、今の状況で開催できるイメージが湧いてこない。トランプみたいに変な決断力だけは早い大統領も困るが、決断力に欠ける政治も始末が悪い。
なお、明日土曜日日経朝刊マーケット面に「2021年金価格展望」で私のインタビュー記事が出る予定。