金曜日の雇用統計悪化でNY金は1,350ドル近傍まで急騰後、週末に、米メキシコ合意で関税発動撤回となるや1,320ドル台まで急落。
またもや1,350ドルの壁にはじかれた感がある。
8日日経朝刊マーケット総合2の金記事でもコメントしたように、今後の米金融政策次第で年内3回利下げなど強い緩和バイアスが確認されれば1,350ドル突破もありえよう。
いっぽう、NY株は先週、週間で1,168ドル上昇した。
特に注目されるのは、経済データが悪化すれば、利下げ期待が強まり、株が買われることだ。
5月雇用統計も、非農業部門新規雇用増は事前予測を大きく下回る7万5千人にとどまった。
しかも、3月、4月分も下方修正され、3か月平均では15万1千人に低下した。
更に、直近の米中悪化が未だ反映されていない。
加えて、2日前に発表された民間ADP雇用レポートも2万7千人増と9年ぶりの低水準を示していた。
ADPと雇用統計が同時にかなりの悪化を示すことは珍しい。
今回は一過性の下げとは必ずしも言いきれない面が気になるところだ。
この雇用統計悪化によりFOMCが7月にも利下げに動く確率が8割を超えた。
結果的に「悪いニュースは良いニュース」となった。
いっぽうで、米メキシコ合意により関税引き上げ撤回の報道は素直に歓迎されている。
この問題も重要視され利下げ要因の一つと見なされてきた経緯があるが、ここは「良いニュースは良いニュース」と扱われている。
いかにも市場の「いいとこどり」が目立つが、これはあくまで短期筋の反応である。
年金基金などの長期マネーは、利下げ観測の根拠になっている経済悪化を重視し且つ吟味して動く。
そもそも短期間に引き締めから緩和へ金融政策を転換したFRBに不信感を抱いている。
昨年12月に利上げを強行して市場大混乱を誘発した事例がトラウマになり、反動で利下げを急ぎ過ぎているのではないか、との疑念が根強い。
FRBはインフレ率より株価変動に反応して動いている、との指摘も少なくない。
トランプ大統領も株価を重視しており「株価本位制」などと言われるのだ。
それゆえ長期マネーは、振れの大きい「利下げ確率」を「ノイズ=雑音」と扱い、じっくり米経済減速の実態を見極めている。
先走り気味の市場を冷静に見守る投資家も少なくない。