原油価格の異常な値動きの要因として、米国金融改革法(ドッド・フランク法)の影響が無視できない。
まず商品先物市場で投機的売買により原油価格が乱高下して庶民生活を直撃することが問題視された。
そこで、大手投資銀行などの原油自己売買を法律的に規制した。
原油売買部門は縮小・閉鎖され、リスクを取って売買するトレーダーが急減した。その結果、市場の流動性が少なくなり、価格が乱高下しやすくなったのだ。
ウオール街の金融機関でリストラされた原油ディーラーたちは、規制の緩いヘッジファンドなどにリクルートされていった。なかには、中東の政府系ファンドに雇用されたディーラーもいる。政府系ファンドとはいえ、投機的売買も行う。ウオール街の規制から解放されて、水を得た魚のごとく活躍している。年俸も、あの高いウオール街より、更に高い金額が提示されているようだ。
そもそも、原油取引の知見を持つトレーダーの数は限られている。そこに経験の浅い機関投資家や、個人投資家が原油ETFを通じて参入してくると、それこそ、飛んで火に入る夏の虫の如しである。今回も、原油ETFで大きな損失を被った個人投資家が既にNY市場では話題になっている。
原油ETFにも問題はある。価格変動の激しい原油価格に正確に連動できない場面があるからだ。SEC(米国証券取引委員会)は当初から、原資産(原油)とETF価格の乖離(トラッキング・エラー)を懸念していた。筆者は、金ETFをNY証券取引所に初めて上場するプロジェクトに参加したとき、SEC詣でをしたのだが、最も厳しく問われたことがトラッキング・エラーであった。
マクロ的視点では、今回、サウジが増産・安売り戦略に走ったことで、OPECの結束が緩み、価格形成の主導権を投機筋が掌握する結果となった。
そこにトランプ大統領が大統領選挙視野に、口先介入する局面も増えそうだ。重要州テキサスではシェールオイルが基幹産業である。21日にも、シェールの雇用を守る意図をツイッターで宣言していた。
サウジ・ロシアに米国も加わるOPECプラス&プラス構想も市場の話題になってきた。
年後半にかけてトランプ発言に投機筋が反応して原油価格が暴走する可能性にも要注意である。
なお、金価格も原油激動に振り回され、換金売り第二波が出たり、下がったところは買い出遅れ組がすかさず拾ってゆくなど、慌ただしい1,700ドル攻防局面である。