この24時間に、膨れ上がった投機家ポジションの荒っぽい整理が市場内で連鎖的に発生した。
株売り、ドル売り、米国債買い、原油売り、金買い。これらの巻き戻しが集中したのだ。
金は30ドル急落して1,650ドル水準で推移している。
円相場は101円台から103-4円まで戻している。

キッカケは10日日本時間早朝の記者会見でトランプ大統領が語った「ドラマチックな支援策」の一言だ。
社会保障、健康保険の雇用者と非雇用者負担を「減税」。
しかも、その後の共和党議員との会話で「年内はゼロにする」という意図が伝わった。
10日のNY株式市場では一時前日比マイナス圏にまで沈んでいた株価が一気に勢いを取り戻し、終わってみれば1,100ドルを超える急反騰となった。
とはいえ、期待しつつも疑心暗鬼という複雑な心境が市場を支配している。
いわゆる「給付税」の規模は1兆ドルを超す。
これを年内という期限付きとはいえ、ゼロにするなど、無理筋である。
財源として国債増発すれば、たちまちドル金利の「悪い急上昇」を誘発する。
安全資産のはずの米国債が一転リスク資産と化す。
なにやらMMT(現在貨幣理論 Modern Monetary Theoryの匂いさえ漂う。
そもそもホワイトハウスのスタッフたちも「初耳」で、急ごしらえの案件ゆえ間に合うのか、との報道も流れている。
トランプ氏は改めて記者会見で詳細を話すと明言しているので、11日の市場注目イベントになりそうだ。
舞台裏ではムニューシン財務長官が民主党側との根回しに奔走しているという。
コロナ対策という位置づけで超党派で臨むとはいえ、トランプ氏とペロシ民主党下院議長は、目も合わさず、口も利かないほど悪化しているからだ。
カドロー国家経済委員長も加わり、民主党との会食が11日には予定されているとの報道もあり、マーケットも一喜一憂となりそうだ。
国債による資金調達コストを抑えるために、トランプ氏のFRBへの利下げ圧力も更に強まろう。
先走り気味の市場では来週のFOMCで0.5%の追加利下げ、更に、4月には0.5%の緊急利下げ予測が独り歩きしている。
更には、ボストン地区連銀総裁ローゼングレン氏が講演で「FRBの買い取り資産対象拡大」に言及したことで、俄かに、FRBも株式購入の可能性が論じられている。
但し、これには連邦準備法13条の変更が必要となり、時間が必要だが、日銀の事例がウォール街でも話題になりつつある。
これまでは「中銀の株購入は株価をゆがめる」と論じていた人たちが、今回ばかりはコロナウイルス関連株価対策の一つとしてやむをえない選択と語る。

 
なお、トランプ大統領のコロナ対策として、シェール生産者支援も検討されている模様だ。
「救済」ではない、との但し書きつきである。
シェールが基幹産業で大統領選では重要州となるテキサスでは、シェール業者たちの悲鳴が聞こえる。
原油価格が戻したとはいえ34ドルでは、とてもやって行けない。
ハイイールド債発行した企業にはデフォルト・リスク。
銀行からの融資で賄ってきた企業は返済遅延リスク。
シェール業界に貸し込んだ銀行では不良債権急増リスク。
特にテキサスの地方金融機関は財務的に耐えられるのか。
銀行信用リスクも懸念される。
現実的には業界内で整理統合が進行することになろう。
このままでは「米国が世界最大の産油国」とのトランプ氏お気に入りのコメントも、使えなくなる可能性がある。
サウジは既にタンカーまで用意して、原油値下げ販売競争に乗り出す構えだ。
ロシアも原油輸出は国家予算にかかわることゆえ、引くに引けない。
コロナウイルス禍による消費国の原油輸入減という需要要因と増産競争という供給要因が同時進行中だ。
これまでにない複雑な構造のオイルショックとなりつつある。
原油の投機的売買に走るヘッジファンドにとっては、格好の草刈り場と化してきた。
そもそも数時間で30%もの暴落とは、とても需給だけで説明できる話ではない。
この原油価格戦争に勝者なしと言われるが、原油空売り攻勢で大儲けしてほくそ笑む投機家もいるのだ。
金も原油も株式も視界不良のなか、先物市場での投機的売買に振られる日々が当分続きそうである。
金市場では、あらためて1,700ドルの壁が意識されている。
毎度、同じことを繰り返しているが、金はバブルだ。需給じゃぶじゃぶなのに、先物主導で上がってきた。
但し、このバブルは米大統領選挙まで続く。昨日、日経CNBC「昼エクスプレス」でもこのことを語った。
コロナの時節柄、電話による取材、出演が増えている。まさにテレワークの日々である。
ジャージ姿で猫抱きながら電話出演しても、緊張感に欠けるかな~~?
参ったのは、「えーー!世界経済はコロナウイルスとオイルショックの云々」に突然「ミャー」という掛け声が入ったりして、こうなると「権威」もなにもあったもんじゃないね(笑)


添付写真は「昼エクスプレス」のキャスター佐久間あすかさんとフランクフルトのECB(欧州中央銀行)を訪問したときの撮影風景。

 

ECB訪問時の写真
仔牛とタケノコの一品
拡大
佐久間あすか氏