SARSが勃発した2003年の中国GDP成長率は同年4-6月期に6.7%にまで急落したが、通年では10%を維持した。
しかし、新型肺炎が勃発した今年は、IMFが年率6.2%を予測している。この数字に新型肺炎の影響は含まれていない。
なにより中国経済構造が激変している。2019年には個人消費のGDP成長率への寄与度が2003年に比し倍増して60%水準に達する。
その個人消費への寄与度が極めて高い春節を新型肺炎が直撃した。
1-3月期のGDP成長率が6%を割り込む可能性が浮上している。
特に注目すべきは、習近平国家主席が、新型肺炎を「悪魔」と位置づけ、「中国人民は新型肺炎と厳しい闘争」「中国共産党の強力な指導で、感染症との阻止戦に勝利する完全な自信がある」と宣言したことだ。この強力な叱咤激励を受け、中国各地から武漢へ続々「衛生隊」が派遣されている。隊を送り出す「壮行会」では愛国心を強調する決意声明が飛び交う。短期的な経済停滞も覚悟の上で、新型肺炎撲滅を最優先とする党の基本方針が透ける。春節終了後、北京に戻った多くの市民を待つのは14日間の外出自粛だ。閉ざされた空間での生活は消費意欲を削ぐ。投資に関しても、リスクと向き合う「アニマル・スピリッツ」が萎えよう。
救いは、2003年に比し、ネット環境が激変したことだ。まずはキャッシュレスの恩恵が効く。娯楽面では中国人に人気のカジノ・スポットであるマカオに今や閑古鳥が鳴くが、フィリピンが特化してきたオンライン・カジノが一躍人気化している。食事宅配サービスも有望だが、配達人との接触を避け「置き配」が選好されそうだ。
勤務面でも、テンセントなど大手IT企業では当面「在宅勤務」への切り換えを進めている。
とはいえ、ヒトの動きが制限されることで、消費には強い逆風が吹く。
更に製造業では、サプライチェーン破断が懸念されることは言うまでもない。
米中貿易戦争で既に疲弊した中国経済が2003年のような回復力を発揮できるか疑問である。
このような緊急事態を受け、習近平氏の号令のもと、財政金融政策支援も全開モードとなろう。
さっそく、中国銀行保険監督管理委員会(銀保監会)が動いた。
銀行支店内の衛生管理徹底。やむをえぬ店舗休業の場合にはネット・バンキングなど代替ソリューション強化。必要に応じ金融サービス手数料引き下げ。住宅ローンはクレジットカード返済遅延には柔軟に対処。融資面では医療関係を優先。貸し渋りや融資回収を戒め、金利引き下げには寛容な対応を指示。
1月26日づけの「指導文書」は至れり尽くせりの内容となっている。
ふだんは「鬼の銀保監会」と金融保険業界で恐れられているが、今回ばかりは「白馬の騎士」を演じているようだ。
この態度豹変は、党の危機感を映す現象でもある。
減速する実体経済と、政府が繰り出す救済政策のせめぎ合いが市場でも展開されそうだ。
習近平国家主席も、当面は安全運転最重視だが、いずれ車のアクセルを強く踏まねばならぬ時期が来る。香港、台湾方面への目配りも欠かせず、危うい走行が続きそうだ。
なお、28日の市場は、株価反転、金は反落して1560ドル台。下げたが依然高値圏を維持。株式市場では、引け後発表されたアップルの決算が注目され、最高益を挙げたが、中国国内での新型肺炎の影響が未知数。そして本日はFOMC. 今回は無風のFOMCとなりそう。FRBがレポ市場で緊急流動性供給を実行中で、これが量的緩和と言えるのではないか、との議論が市場では交わされている。質疑応答でパウエル議長の答えに注目。つまるところ、株も金も傾向的には同時に上がってきた理由の一つがFRBからの流動性供給にあるのは事実だ。但し、パウエル氏は、これは量的緩和ではない、経常的資金供給オペだと主張している。
なお、中国語に興味ある人には、参考までに銀保監会文書を添付↓
http://www.cbirc.gov.cn/cn/view/pages/ItemDetail.html?docId=888850&itemId=915
写真は、早朝、朝日を横から浴びるガーラ湯沢スキー場。
海抜1000メートル近くのゲレンデで、普段なら、1-2月は樹氷で白銀の世界なのだが、今年は木の幹が露出している。付近のスキー場の多くは、ゲレンデに地肌が目立つ。今年のスキーシーズンは2月末で終わりかな。。。去年は5月のGWまで楽しめたけど。