マイナス金利の国債を満期まで持ち切れば損する。
預金すれば手数料を徴収される。
このような事例が相次ぎ報道され、個人投資家は動揺している。
国債も預金も元本保証の安全資産ではなかったのか、という素朴な疑問である。
このままでは、貯蓄から投資どころか、タンス預金が増える結果になる可能性がある。

とはいえ、マイナス金利の仕組みや、銀行経営への副作用を初心者個人投資家に分かりやすく説明するのは難しい。
理解するには最低限の金融知識が必要だ。中国・韓国情勢に関しては、テレビのワイドショーを通して、プロ並みの情報を得ているが、こと経済となると、円高・円安の説明を聞くだけで目が泳いでいる。
投資セミナーは全国で頻繁に開催されているが、無作為抽出で見れば、参加するほどの投資意欲を持つ人の出現率は低い。
その少数派のセミナー参加者にも、「焦りを感じて出席した」という危うい人たちが目立つ。
「お隣さんは、アベノミクス相場とかトランプ相場とかで大儲けしたらしくて、連休には家族でハワイに行った。私は何もしていない。慌てて駅前の書店ビジネス書コーナーに行ったが、書いてあることが全く理解できない」
このような横並び日本人らしい発言が珍しくない。
筆者は「自分だけ出遅れたという感覚は危険。そもそもトランプ相場を読み切れるプロなど世界に一人もいない。なぜなら、トランプ大統領自身が、どうなるか分かっていないのだから。焦りで余計な投資売買して儲けるのは、手数料を得る業者だけ。」と警告を発している。
今や、安全資産など無い時代ゆえ、投資に関しては、まずリスクに慣れること。
ホットな投資に浸かるまえに、かけ湯感覚で地味な積立から始めよ、と説く。
損したときの感覚を実体験しないと、オロオロするだけだ。
特にネット経由の投資は、夜、自室に一人籠り、キーボードを叩くことが多いので、損したときの焦りが増幅されがちだ。
そのような実体験を経て、筆者も子供のときからの金銭教育の必要性を痛感している。とはいえ、これは10年単位の時間を要する。
それゆえ、若い人たちには、未だ余裕資金も乏しい世代ゆえ、「自己投資」して学ぶことから始めることが賢明。老後まで時間はたっぷりあるのだから、焦るな、と語っている。


筆者が持て余し気味の世代がバブルを体験した人たちだ。
「夢をもう一度」との感覚を捨てきれない。安全資産神話崩壊というような表現にもめげない。
「あなたはプロなのだから裏技があるはず。それを聞きにきた」と詰め寄られ「投資の世界に占いの水晶玉など無い」と答えると、なんと「ケチ」と言われたりする。
知っているのに出し惜しみしていると思われているわけだ。唖然とするばかり。
セミナー会場の雰囲気も「儲ける」とのムンムン感に満ちている。
参加者が高齢者たちとなると、会場が加齢臭でむせ返るほどだ。
対して、セミナーでも聴衆が若い世代だと、素直に勉強のために参加する人たちが多い。
会場の雰囲気も予備校講義のようになり、サラサラとメモする音だけが響く。
氷河期世代ゆえ、そもそも、「儲け話」など怪しいと冷ややかだ。
それでもせめて将来に備え、資産の自己防衛のことは知っておきたい、との発想である。
株価や金価格に関する質問でも、バブル世代は「どこまで上がるか」が殆どだが、若い世代は「下がるとすればどこまで下がるのか」との問いが目立つ。


ちなみに、これが機関投資家になると、開口一番「よそさんは、どうなんでしょうか」と聞かれることが珍しくない。
運用で損しても、皆一緒なら社内で不問に付されるのだろう。
個人投資家は自分だけが何とか儲けようと頑張る傾向があるが、機関投資家は、自分だけ損することが悪夢なのだ。
そのプロの機関投資家たちこそ、マイナス金利の痛みを最も強く感じている集団でもある。