厚生労働省が提出した年金財政の検証結果が話題になっています。
明確に、年金給付は、このままでは立ち行かない、という厳しい現実を具体例で示したからです。
前提となる将来の経済状況について6つのシナリオを掲げ、賃金と物価の上昇率を最も低く見積もったケースでは、2050年代に
国民年金の積立金は枯渇する破局のシナリオを明示しました。この最も低く見積もったケースが、最も現実的な経済シナリオと見られています。
更に、問題視されているのが、マクロ経済スライド、という仕組み。
要は、賃金も物価も上がらない状況になった場合に、現役組の年金保険料支払いは増えないので、その分は、急増する高齢者の年金支給も減らす、という仕組みです。
これが実際には、年金支給は減らせず、積立金を食いつぶし、現役組の将来の負担を増やす結果になっています。
そもそも公的年金の半額は税金で賄う仕組みなので、足りない分は増税で補填するしかない。
それなのに政府は「今後10年間くらいは消費税を上げる必要はない」としています。
そもそも今回の都合の悪い結果発表を、これまでより3か月遅らせて、つまり、参院選挙後に行ったことが、疑われてもしょうがないでしょう。
このマクロ経済スライドに関しては、もっぱら、今後も日本経済のデフレ傾向が続く場合が想定されていますが、年金というのは、今後30年、50年あるいは100年の長期に亘る話です。
今でこそディスインフレ基調ですが、10年後、20年後にインフレになった場合に、このマクロ経済スライドで、年金も物価上昇分だけ増えてゆくのか、という議論が見当たりません。
でも、70年代のオイルショックでインフレを経験した世代の視点では、歴史が繰り返されても不思議はありません。
事実、今年、イランによるホルムズ海峡封鎖が懸念されています。
70年代から40年経って、同じ理由で金が買われているのを見るにつけ、歴史は繰り返すことを痛感しています。
もう一つ、議論されていない、というか、メディアも理解できずに放置されていることが、年金の運用です。
今、話題の小泉進次郎自民党厚生労働部会長は、「足りない部分は、たとえば運用努力で補うとか」と発言していましたが、株暴落により、その運用で目減りする事態も頻発しているわけです。
これまでの蓄積があるし、株価は上がることもあるから、なんとか維持できていますが、年金総額が株価次第という状況はいかにも不安定です。
運用は、せめて目減りだけは避ける、程度で見る必要があるでしょう。
これまで年金運用の主体であった国債はマイナス金利。
とても、まともな運用でプラスのリターンを数十年に亘り稼ぎ続けるような楽観的状況は期待できません。
今回発表されたモデルケースでは「夫が会社員を40年、妻は一度も働きに出たことのない主婦」という高度成長期の標準的家庭が想定されていることも時代遅れです。
いまや「おひとりさま」や「共働き」が普通の形態になっているなかで、単身女性が、最も厳しい年金環境に置かれている結果になっています。
パートに労働者たちも厚生年金に加入させて、なんとか、将来の給付金を増やそうという発想も、その通りなのですが、かなり切ない話だと思います。
とにかく、お上頼みでは、限界があります。
よく使われる言葉ですが「自助努力」つまり自分の老後は自分で備えるしか方法はないのです。
そのために、まずは、働ける限り働くということ。
働けるためには、自分の労働市場での「マーケット価値」を高める努力が必要です。
外国人労働者も積極的に受け入れないと、人口は減るだけでしょう。
年金受取開始年齢を遅くすれば、年金は多く貰えるという仕組みも、実際には、自分が元気なうちに貰えるものは貰って人生を楽しみたい、という発想のほうが強いと思います。
セミナーでこれまで積み立て、或いは買い増してきた金を売るべきか否かの質問を受けることもあります。
私は、一定の年齢になったら、売り払って人生楽しむのも良し、と答えています。
そもそも資産運用とは、あくまで手段であり目的ではないのですから。