日本では円が安全通貨とされるが、ウォール街では、ドルが安全通貨との見方も多い。実際に、マネーは米国に還流している。
ブレクジットやドイツ経済失速を懸念してユーロ・ポンドを見切るマネーや、米中貿易戦争リスクを懸念する大量のマネーが米国に逃避してくる。
その結果、FRB利下げでもドル高(除く対円)という「市況の法則」に反する現象も生じる。
トランプ大統領はおかんむりだ。
マネー難民流入に対しても、「壁」を作りかねないような語調である。
 
しかし、8日には、風向きが一時的に変わった。
財政規律を頑なに守るドイツが財政支出を増やすとの報道が外電で流れたのだ。
欧州全体のスローガンともいえる「気候変動問題」を錦の御旗に「温暖化対策予算」を大幅に増やすとの消息筋の見方が市場で注目を集めた。
「グリーン・ボンド=緑の国債」を特別発行する計画とされる。
金融政策の限界が意識されるなかで、欧州、特にドイツには財政政策発動余地が残る。
この報道を受け、安全資産としての米国債購入の波にも足元では歯止めがかかった。米国債利回り低下も一服した。
ダウ平均も反発して終えた。
この報道の真偽は確認できないが、本当にドイツが「財政規律の呪縛」から解放されれば、マーケットの潮目が変わる可能性はある。
 
とはいえ、ドラギECB総裁を名指しで、ユーロ安誘導が逃避マネーの米国流入を誘発してドル高になると非難するトランプ大統領の語調は益々荒くなっている。
「米国大統領としてドル高を望むと思われているかもしれないが、私は違う。
FRBの高金利政策で、他国に比しドル高となり、偉大な米国の製造業が不平等な競争を強いられているのだ。」と「ドル安宣言」をツイートした。
いずれ、サプライズ利下げで対応したインド、タイ、ニュージーランドにも非難の矛先がむかうかもしれない。
2020年大統領選挙演説では、中国叩きよりFRB叩きが強まりそうな様相だ。
そして、ドルと円が安全通貨と見なされるなかで、金は無国籍通貨として、ソブリンリスクが無いことが注目される。
発行国の経済が破綻しても、独自の価値を持つ無国籍通貨の価値は毀損しない。
ドル発行国の米国だって、円発行国の日本だって、巨額の赤字をかかえる国だ。
相対的に人民元とかルーブルなどに比べれば安全といえるが、絶対的に安全とは「絶対に」言えない。

 

さて、8月10日朝9時からBSテレ東の「日経プラス10サタデー」に生出演予定。お題は「人民元」。