本日の出し物は、好評だった8月16日づけ「トルコ経済危機の正体」のアルゼンチン編。
アルゼンチンといえば、債務不履行の「常習国」と見做される。過去100年間に6回、デフォルトしてきた。最近では2001年、債務不履行したときは、同国国債保有者が、新たに発行された国債との交換を強いられ、元本の3割相当しか戻ってこなかった。国が3割損、投資家が7割損の「痛み分け」だ。いっぽう、大手ヘッジファンドが、全額償還を要求して、法的紛争となり、結局、ヘッジファンド側が勝利した一幕もあった。
かくして、危機は去ったかに見えた。
しかし、その後も、国民人気取りのばらまき財政が横行。財政再建にともなう増税、緊縮生活の痛みには、アルゼンチン国民が耐えられない。放漫財政が黙認された。懲りない人たちである。
政権が、まともな政策では切り抜けられず、発表されるマクロ経済統計を改ざんする事態にも発展した。物価連動債の利払いを安く抑えるために、消費者物価上昇率を低めに粉飾して出したのだ。お粗末。
結局、アルゼンチン経済は、景気後退、物価上昇のスタグフレーションに陥る。通貨不安も強まる。
その当時のフェルナンデス政権は、対応策として、国民の外貨保有制限、海外旅行経費への課税など露骨な経済統制を強行。なにせ国民が自国通貨を信用せず、預金といえばドル預金が当たり前という国のこと。国内にドルのブラックマーケットが乱立する事態となった。インフレも加速して、統制経済への国民の不満もピークに達し、2015年の大統領選挙で市場構造改革派の現マクリ大統領が誕生となる。
市場は「アルゼンチンの反省が殊勝である」と評価。
アルゼンチン国債も市場復帰を果たし、国の国債発行による資金調達への道が開かれた。調子に乗って、つい昨年7月には100年債という途方もない満期の国債が年率8%の利回りで発行され、3倍もの応札があったほどだ。年8%いただけるのなら、アルゼンチンに100年間、カネを貸してもよい、との投資家の反応だった。
ゼロ金利での運用難に悩む機関投資家も、8%の誘惑には勝てず。とはいえ、これは、どうみても「債券バブル」といえる現象であった。
マクリ政権は、経済改革として、油などエネルギー価格への補助金撤廃、公務員リストラなどを唱えたが、国民は反発。やっぱり、懲りない人たち。
そこに追い打ちをかけたのが、米FRBの量的緩和終了・利上げ開始だ。世界にばら撒かれたマネーの受け皿となっていた新興国から緩和マネーが一転逆流。
投資家にしてみれば、債務不履行常習犯アルゼンチンの国債を買って、年8%の利回りを得るより、安定した米国債で年2%も貰えれば。御の字、ということになる。
泣きっ面に蜂で、アルゼンチン・ビーフで有名な(筆者も大好物!カンケーないか笑)農業畜産産業に、干ばつの打撃。これは痛かった。
かくして市場が抱くアルゼンチン不安モヤモヤ感が、トルコリラ暴落により、一気に噴出する事態となった。
最新状況は、マクリ大統領がIMFに過去最大級の5兆円規模追加支援要請。当然、経済リストラ必殺仕掛け人集団IMFからの、厳しい条件つきゆえ、アルゼンチン国民は緊縮を強いられる。
極め付けが輸出品、特に稼ぎ頭の農業畜産品への課税だ。
アルゼンチンペソ暴落は、輸出産業には、価格競争力強化の恩恵を与える。そこで、マクリ大統領は、愛国心に訴え、思わぬタナボタの産業は、その一部を「増税」というカタチで国へ利益還元してくれ、と要求した。農業業界は当然一斉に反発。これまで、輸出大豆への課税を減税するなど妥協してきたマクリ大統領の「突然の変節」は許せない!と激怒。大統領側は、国の危機的事態ゆえ、これまでの温情的措置は忘れてくれ、と懇願。来年の大統領選挙を視野に、「これが悪税だと分かっているが、そこをなんとか」とすがる。そもそも、米中貿易戦争の余波に巻き込まれたとか、FRBの勝手な利上げとか、神様も干ばつの試練を与えたもうた、とか、言い分というか、言い訳が続く。
市場も、俄かには、アルゼンチンの「反省」を信じがたい。「本気度を示す具体的証拠を見たい」とクールな反応だ。
アルゼンチンペソの通貨不安が続く限り、ソブリン債務の8割を占めるドル建て債務は実質的に膨らんでゆく。CDSは急上昇。
アルゼンチン中銀は、政策金利を40%から60%まで引き上げる劇的措置を、少なくとも年内は続ける方針という。
IMFはプライマリーバランスを2019年までにGDP比1.3%目標を提示。
果たして、達成可能な数字か。市場は疑心暗鬼だ。
以上が、アルゼンチン物語の最新版である。