「パラジウムの現状:2018年2月」
パラジウムが再び上昇のトレンドに入ってきたようです。
1月半ばに1,140ドルという高値をつけてから、2月8日に960ドルという安値をつけほぼ一ヶ月で180ドルもの下げを記録しました。
この下げの直接的な要因は積み上がったNymexでの投資家ロングの利食い売りでした。
この期間のNymexの投資家ロングは27,000ロット(約42トン)から15,150ロット(1lot =50 onz、約24トン)まで、約18トンという量のパラジウムが売られたことになります。
そしてその結果、パラジウムのロングは大幅に減少、投資家ロングポジションとしてはほぼ一年かけて増えた分がわずか一ヶ月で売られてしまったことになります。
しかしこれによってパラジウムの唯一の売り材料であったNymex投資家の巨大なロングの大きな部分が解消されたわけで、まさにパラジウムの相場にとってはいい灰汁抜きになったと考えられます。
その結果、底値であった960ドルから10日もかからずにパラジウムは1,050ドルまで大きく戻し、一時は4ヶ月ぶりにプラチナを下回るところまで下がったパラジウムも、早くも50ドル近くのプレミアム(パラジウムの方がプラチナよりも高い状態)に戻り、供給不足という本来のファンダメンタルズ相場に戻っています。
(ドル建てパラジウム価格とNymexの投資家ロングポジション)
(プラチナ・パラジウム比価)
「供給不足」
今月発表されたジョンソン・マッセイ社のPGMレポートによるとパラジウムは大きな供給不足が続きます。
2017年の見通しは19.6トンの供給不足が予想されています。(↓の表)
少なくとも過去6年間に渡り、パラジウムは供給不足が続いており、現物不足が深刻化しています。
それを端的に示すのが、メタルの金利であるリースレートです。
つまりメタルを借りるときの金利ですが、たとえば1年のリースレート、ゴールドは0.15%、シルバーは0.1%、プラチナは0.55%、と軒並み超低金利なのですが、パラジウムは現状でも5%近いレートです。
この供給不足状態は近い将来には解決されそうにありません。
鉱山生産は基本的に毎年ほぼ変わらず。リサイクルからの供給は増加していますが、それよりも自動車触媒での需要の伸びのほうが大きく、今後リサイクルからの供給が爆発的に増加して供給が増えるか、ガソリン車が一挙に売れなくなるとかいった予想外の出来事がない限り、パラジウムの供給不足はより深刻さの度合いを増す一方だと思います。
(Johnson Matthey PGM市場レポート2018年2月より)
「プラチナによるパラジウム代替はあるのか?」
こうなってくるのと誰もが考えるのがプラチナによるパラジウムの代替は起きないのかという疑問。PGMの最大の需要分野である自動車触媒。
そもそも触媒としての性能はプラチナの方が圧倒的に上位にあります。
プラチナが主にディーゼルエンジンに使われるのは、ディーゼルにはプラチナの性能が必要であり、パラジウムでは役不足であったからです。
しかしガソリンエンジンはパラジウムでも十分に事足りたのです。
そしてパラジウムとプラチナの価格は一時プラチナがパラジウムの5倍まで高かった時期があったほど常にプラチナが高い状態でした。
過去30年の間に現在のようにプラチナとパラジウムの価格が逆転したのは、ほんの一度だけ。
ロシアのパラジウム禁輸によりパラジウムの供給が途絶えた時以外にはありません。
そのため自動車会社は使えるのであれば、コスト的に圧倒的に安いパラジウムを触媒として使用してきたのです。
その大前提が今大きく崩れているわけです。
もし可能であれば、もちろん安くて性能もよりよいプラチナを触媒として使うという選択肢は多いに「あり」です。
しかしながら、現在はパラジウムの使用を前提としてガソリン車の触媒の製造ラインはできており、プラチナが安くなったからと言って、すぐにパラジウムをやめてプラチナに乗り換えるというわけにはいかないのです。
また、この逆転がいつまで続くのか、また元に戻るとしたら、どうなるのか、といろいろと問題があります。
そのため触媒製造現場としては、そうそう簡単に代替なんてことはできないのです。
代替となるためには、価格の逆転幅が相当大きく、そしてそれが少なくとも5年~10年は続くという見通しが必要だと思われます。
近いうちにプラチナがパラジウムの代替に使われるということは、こと自動車触媒においてはまずないと考えていいでしょう。
となるとやはりパラジウムはまだまだ強そうです。
(プラチナ・パラジウム比価:30年)
以上