「大銀行の店頭で購入したので、安全だと思っていた。今更、シャドーバンク組成商品などと言われても困る」
「元本保証のはず。損失が出れば、銀行か政府が補償するはず」
理財商品破たんの報道が出始め、購入した個人投資家の一部には動揺が走る。
そもそも大手銀行支店の店頭で投資リスク説明もなく、リスク開示文言(ディスクレーマー)もなく販売された。
筆者も、支店で若手女子行員が無邪気にマニュアルどおりにハイリスク・ハイリターン型の理財商品を売りさばいてゆく光景を再三目撃したものだ。
彼女たちに、影の銀行と言ってみても、仕組みを理解していないから、まともな答えは返ってこなかった。
今後、一部理財商品の破綻は不可避だ。特に炭鉱などの供給過剰セクターへ投資した商品で7-8%のリターンを謳ったタイプの理財商品には既に破綻の事例も出始めている。
組成したシャドーバンクの幹部に購入投資家たちが詰め寄る事件も起こった。
例によって、きめ細かに情報統制しているが、このような事例がSNSで拡散されると、取り付け騒動に発展するリスクがある。
当局の旧銀行業監督管理委員会=銀監会も昨年は規制を強化した。
まずは、理財商品を当該銀行で簿外扱いせず透明性を高めることから始める方針であった。
銀監会トップには実力者、郭樹清氏が就任していた。
今年3月には銀行と保険の監督部門統合で銀行保険監督管理委員会=銀保会が発足。
初代主席に郭氏が就任。更に、郭氏は中国人民銀行副総裁と共産党委員会書記も兼務。
易綱中国人民銀行総裁は格下の党委副書記という異例の組み合わせ人事を断行した。
過剰債務や簿外資産膨張で脆弱になった金融システムの改革に対する強い決意を表わす措置と市場では理解された。
ところが、その後、習近平氏は、簿外資産規制強化の先送りを示唆。構造改革への論調がトーンダウンしている。
中国の景況感に関する懸念が市場に強まり、失業が社会不安を醸成するという党が最も嫌うシナリオが現実味を帯びると、結局、成長重視に軸足を戻さざるを得ないと見られている。
理財商品についても、当面、救済措置が採られるとの期待が、現地の銀行の間でも強まってきた。
その間、個人投資家の金融リテラシーが向上している兆しは見えない。
投資の損失は補てんされるとのモラル・ハザードは、容易に払拭できるものではない。
筆者が上海の投資セミナーで講演したときも、「どれだけ儲かるか」との質問ばかりで、「リスク」に関する疑問は全く聞かれなかった。
習近平氏の強権政治も、人間の欲だけは、抑制できない。