2021年4月15日付ブログ「東欧諸国が公的金準備増強、ロシアの影が濃厚」で以下のように書いた。


ハンガリーが公的金保有を31.5トンから94.5トンに増やしました。
ポーランドは2018年に金100トンを公的購入しましたが、先日「今後、また100トンほどを買う予定」と発表しました。


いずれもかなりの量です。
そして彼らの金購入は偶然ではありません。
米ソ冷戦は過去のことですが、東欧諸国は未だにロシアの脅威を感じています。
何か名目をつけてロシア軍が侵入してくるかもしれないという緊張感が常にあります。
ポーランド国境近くでは米国との共同軍事演習が行われています。
実際にロシアはウクライナの一部を併合していますからね。
米露関係も悪化しています。
ロシアの米国大統領選挙介入などが問題化しています。
そのような政治環境にあって、まさに「有事の金」を国で購入して、いざという時に備えるわけです。


「公的分野」の金購入にも様々な国の事情があるわけです。
中国やロシアが巨額の公的金を購入しているのも米ドル離れの一環と言えましょう。
ロシア中央銀行は外貨準備の中で人民元も増やし、中国の人民元国際通貨政策を後押ししています。
米ドルに代わり人民元を国際基軸通貨に押し上げるという戦略ですね。
金は無国籍通貨ですから、ドルも嫌だ、ユーロも持ちたくない、まして円を持つなど論外という国にとって、ナショナリズムの匂いがしない通貨なので都合が良いのですよ。


なお、中東の場合はイスラム金融が「金利」を不労所得として排していますので、金利が付かないから金が良いという価値判断なのです。
加えてサウジアラビアは巨額の公的金を保有しているが、政府系ファンド(サウジアラビア投資庁)に持たせて、外貨準備から外し、IMFにも報告していません。


以上


今から見ると、やはり東欧諸国はウクライナの異変に備えていたようだ。
ドイツが大量の公的保有金をフランクフルトだけではなく、ロンドン(イングランド銀行)、パリ(フランス銀行)そしてNY連銀に分散保管するのも、そもそもはロシア侵攻を想定しての方策であった。
今や、ウクライナ地政学的リスクが市場の重大テーマになった。
昨日のNY市場では、ダウが一時は前日比1,115ポイント安という暴落を演じたかと思えば、その後、一転切り返し、終わってみれば、前日比99ポイントのプラス圏であった。
筆者も前例の記憶がないほどの一日の株価変動だ。
これは、ウクライナというより、やはりFOMC前夜の市場の波乱と見るべきであろう。
ダウが暴落の過程では、百戦錬磨のツワモノたちのZOOM画面に映る顔も、さすがに青ざめ、言葉少なになっていた。
その後、前日比プラス圏まで切り返す急反騰局面では、ハッピーとか安堵というより呆気にとられた様子であった。
普段なら、見事に後講釈を語ってくれるベテラン、アナリスト氏も、想定外の展開に寡黙であった。


このような荒い値動きを繰り返していると、コロナ自粛期間中に増えた個人投資家たちも恐れて逃げてしまうだろう。
今のNY市場最前線で働くトレーダーたちを見ても、社会に出たとき、既にゼロ金利だった、という世代が多い。
いきなり、金利がプラス0.25%になると聞いただけで、重いハンディを背負った気分になるようだ。
例えば、商品トレーダーが原油を買うための社内ドル資金調達金利が0.25%上がるということは、今後コンスタントに0.25%分のリターンを常にあげなければならない。
大きな金額を扱うプロにとって、25ベーシスプラスは強いプレッシャーとなる。
こればかりは体験した者でなくては分かるまい。
まして、利上げが年4回とか、0.5%刻みの可能性などを意識すると、すくんでしまうようだ。
こうなると短期売買回転で稼ぎを目論むようになり、日中のボラティリティ(価格変動)は益々激しくなろう。
しかも、市中に溢れる過剰流動性が年内にもFRBにより徐々に吸い上げられる可能性もある。
利上げとQTが同時進行するケースも、史上初の体験となる。
未体験ゾーンに挑むときは、スタートの号砲が鳴る前に、最も緊張感が高まるものだ。
恐怖指数VIXの昨日のチャートを見ても、28から瞬間的に38まで急騰後、急反落した結果、絵に描いたような「上ヒゲ」になっている。
40前後になれば「危機水準」とされるので、市場内の動揺感が滲む。


NY金は1,830ドルから40ドルの間で持ち合い。
もっと上がってもよさそうな局面だが、やはり、利上げがジワリ、下押し圧力として効いている。
とはいえ、高値水準を維持しているので、ビットコインが最高値の半値まで急落しているのとは、好対照ともいえる。
金とビットコインの関係を見ると、今や、規制強化に晒されるビットコインが劣勢の雲行きである。