5日の米国市場午後に公表された12月FOMC議事録は、パウエル議長がFOMC後の記者会見で語ったトーンより、タカ派的な印象を市場に与えている。
特に、FRBがコロナ有事対応で巨額の米国債を購入した結果、4兆ドル以上も急膨張して9兆ドル近くの規模になったFRB保有総資産を減らす「バランスシート縮小」を急ぐ意図が感じられる。
FRB資産購入が過剰流動性相場を誘発して金価格を支える所謂「パウエル依存症」の気配が濃厚な市場は、FRBが資産減らしに乗り出すことには極めて神経質だ。
パウエル氏自身も苦い経験がある。
FRB議長就任後、やはり資産圧縮が注目されていた時期に、「資産圧縮については自動操縦」と語り、市場が混乱したのだ。
それゆえ今回パウエル氏は慎重な言い回しで検討中とのメッセージを発信してきた。
しかし、公表された議事録を見る限り、資産圧縮は前回より速いペースで進めるとの議論があったようだ。
(金市場の過剰流動性相場とは、マネーじゃぶじゃぶ状態が常態化して、希薄化するおカネの価値に疑念をいだく投資家が、希少価値がある実物資産としての金を選好すること。
従って、じゃぶじゃぶマネーを回収する「FRB資産圧縮」は金価格に逆風となる。
更に、圧縮により、インフレ懸念は薄まり、逆に、ディスインフレが懸念される可能性も生じる。)
市場は先走り、年内にも資産圧縮開始かと身構える。利上げから資産圧縮へ進行する手順が、利上げと同時に資産圧縮となると、これは厳しい。
既にFOMC参加者のウォラーFRB理事は、利上げより資産圧縮のほうが金融引き締めには効果的とも発言している。
今年、FOMCでの投票権を持つメスター・クリーブランド連銀総裁や、ジョージ・カンザスシティ連銀総裁なら言い出しかねないとの見方もある。
両氏とも常々タカ派的発言で注目されるからだ。
更に市場が気になるのが、資産圧縮規模だが、ウォラー理事が、目安として現在のGDP35%相当から20%へ、と発言している。
コロナ有事対応で4兆ドル超、急増した資産規模を、ざっくり1~2兆ドル減らすのか、との試算が市場には流れる。
FRB保有債券のなかで短期国債から減らし始めれば、これは現実的な数字だが、いざパウエル議長が、圧縮規模を具体的に語れば、市場にはショック効果を与えそうだ。
なお、対象となる国債の内訳が、長期債であれば、引き締め効果は相対的に強くなる。圧縮の手段も、通常は、満期となった保有国債の分を再購入せず、自然減に任せる方法が、ショック効果が抑えられる。
かくして、今年3回程度の利上げが3月から始まることは覚悟して織り込んできた市場の焦点は、利上げから資産圧縮に移りつつある。
以上の議論を整理すると、まずテーパリング(量的緩和縮小)を早く切り上げ、再来月の3月には利上げ開始。年後半には資産圧縮も開始、とのシナリオが現実味を帯びる。
但し、12月FOMCの時点ではオミクロン株の影響が未だ不透明であった。それゆえ1月25~26日に開催されるFOMCが重要イベントとなる。
その前にも、パウエル議長の議会公聴会発言や、FOMC参加者たちの講演などが予定されている。
12月雇用統計、消費者物価指数、小売売上高などの重要指標も見逃せない。
特に、インフレ指標は1~3月、高水準が続くことが予想されるが、雇用面で完全雇用の達成については意見が割れる。
懸念材料は労働参加率がコロナ前より低位水準から脱却できないこと。
例えば、働ける高齢者や女性がコロナ回避で再就職を諦めるような状況が続けば、労働市場が縮小均衡状態で失業率は低下して、見かけの雇用目標は達成されるかもしれない。
いっぽう、離職率が高いことは、賃金条件や労働環境がより良い就職先が選択される傾向を映すので、労働市場逼迫と解釈されよう。
とはいえ、オミクロン株、更に新たな変異種の出現など、不透明要因をかかえる市場の視点では、そもそも、資産圧縮の議論を進める前に、利上げが想定通りに出来るのか、疑念は根強い。
3月にかけて、米金融政策が、金市場を揺らす局面が増えそうだ。