中国の7-9月期GDPは4.9%に減速した。
恒大問題とエネルギー政策の混乱の影響が顕著だ。
まず電力危機問題が深刻である。中国は電力の7割を火力(石炭)に依存する。
その石炭の国内主要産地といえば、山西省と陝西省である。
習近平政権のCO2排出量2030年までに削減の目標のもと、石炭減産を強いられてきたが、電力危機が悪化するや、増産への転換を指示された。
ところが、陝西省内では大気汚染回避も重要問題となり、操業制限を余儀なくされている。
9月に同省で日本の国体にあたる「全運会」が、北京五輪も視野に開催されたからだ。
更に、同省延安市は、中国共産党の「革命聖地」であり、全国から革命史跡訪問ツアー(赤色観光)の人気地となっている。
1937年から10年間、中国共産党が国民党から逃れ、同市を拠点にした歴史があるからだ。
加えて、鉱山での安全性強化も指示され、罰則を嫌い増産を躊躇う事例も出始めた。
石炭生産の現場からは強い戸惑いの声が上がっている。
そもそも、地方政府は省エネ目標達成のため、直接的電力使用制限を課してきた。
国家発電改革委員会が未達の事例に対して名指し警告も発してきた。
そこで、発電所は稼働率を引き下げ、計画停電も実施され、これが社会不安の原因にもなっている。


ところが、電力不足の中国経済への深刻な影響が明らかになり、一転、増産、或いは、電力価格引き上げによる電力供給維持に動き始めている。
このような状況下で、今回、発表された7-9月鉱工業生産は3.1%増に留まっている。
9月の生産者物価指数は前年比10.7%と過去最高水準を記録した。
内需が依然脆弱な地合いゆえ、物価抑制政策の余地は限られる。
既に供給網の混乱の影響も受けている企業収益にはコストアップという厳しい環境が続く。
個人消費については、7-9月小売り売上高が4.4%増と事前予測を上回った。コロナからの解放過程で、個人の消費は回復基調にあるが、家具など耐久消費財購入は未だ低調である。


かくして、習近平政権は、経済的悪影響は覚悟のうえで、環境維持を優先してきたが、ここにきて、極めて危うい綱渡りを強いられている。
共同富裕構想も正念場を迎える。
相次ぐ大手企業や富豪に対する規制強化は、中国国内の投資環境の不透明性を高め、マネーの流れを停滞させる傾向が顕在化してきた。
その矢先に恒大問題が勃発。
社債保有者より一般市民の恒大関連「理財商品」保有者や、全額前金払いのマンション購入者の救済が優先される。
しかし、運用先も不明なまま年率7%程度のリターンに誘われ理財商品を購入した個人投資家のモラルハザードを、いつまでも放置することは出来ない。
共同富裕とは、一般市民を甘えさせることではない。


マクロ経済の視点では、恒大問題の影響が飛び火して、大都市圏を中心に不動産売買が既に急減傾向だ。
今回発表された不動産とインフラ投資を含む7-9月固定投資は7.3%増加したが、今後の恒大問題の展開次第という下押しリスクを孕む。
そこで市場では中国人民銀行の今後の政策対応が注目される。
中期的には民間企業の過剰債務削減強化が進むなかで、中期的にはインフラ投資も抑制されがちだ。
同行は、恒大問題の影響は封じ込められると説明するが、不動産関連融資の規制強化が、GDPの3割近くを占めるとされる不動産関連セクターの委縮を招くは必定である。
更に、不動産は中国人個人資産保有の半分以上を占めるので、負の資産効果の個人消費への影響も避けがたい。
そこで市場では今後の中国人民銀行の追加緩和政策への期待も根強い。


とはいえ、マクロの視点では、恒大、更に、他の大手不動産企業を露骨に救済すれば、共同富裕構想と相反する。
しかし、何らかの救済措置なくしては、中国GDPに強い下押し圧力がかかる。どうみても、この状況をり抜ける妙案はない。
それでも習近平氏は政治的野心に基づく強権政治を貫くのか。
今回の中国GDP発表は、待ったなしの正念場という実態を露わにした。
 

金国際価格はやはり1,800ドルの壁を突破できず、1,760ドル台まで急反落。

 

kitco

15日のNY市場では、ビットコイン先物ETFをSEC(米国証券取引委員会)が認可するとの報道が注目された。
ビットコインETFか、金ETFか、との話題も出ていた。ビットコイン先物ETFは正確にいえばETFではない。
ETNだ。すなわち、ビットコインを実際に売買するのではなく、先物価格に連動するという立て付けだ。
既にビットコインは米国先物市場に上場されているので、SECも認可の方向と見られる。
しかし、ただでさえ、値動きが激しいビットコインにレバレッジかけて先物で売買して、その価格に正確に連動できるのか。
筆者は出来ないと思う。
原資産価格に正確に連動することが重要なので、この仮想通貨先物ETNには極めて懐疑的である。