これは、かなり大きな出来事です。金の上昇トレンドを追認したと言えます。

以下、今日の原稿。

 

ダボスから冬の嵐が市場を直撃している。

「ドル安は貿易・(ビジネス)機会の面で良いことだ」とムニューシン財務長官は発言した。「長期的には強いドルは米国経済力を映す。ドルは主たる準備通貨である」と両論併記したものの、ドル安傾向に敏感になっている市場は、ドル安容認発言と解釈した。ドルインデックスも遂に90の大台を割り込んだ。80台となると、歴史的にドル安時代のレンジを想起させる。90台であれば、「ドルがいつ底打ちか」が語られるのだが、80台となると「ドルがいよいよ長期的下落トレンドに入ったのか」が論じられるようになる。ムニューシン発言は明らかに市場のセンチメントを変えた。ドルの代替通貨とされる金の価格が、レンジを上放れ、北朝鮮有事の金買いのピークに匹敵する高値1360ドル台まで急騰したことが象徴的だ。金買いという投資行動はドルに対する不信任投票に等しい。

更に、たたみかけるように、ロス通商長官も「貿易戦争は毎日戦われている。これまでも貿易戦争は常にあったが、今回の特徴は米軍が防衛に来ることだ」と語った。市場は「戦線布告のごとき発言」と受け止める。

トランプ大統領が太陽光パネルと電気洗濯機に対してセーフガード(緊急輸入制限)を発動し、関税の大幅引き上げを決めた直後の発言ゆえ、市場へのインパクトも増幅される。

トランプ大統領は「選挙公約」を実現して中間選挙で支持派投票を固める姿勢を強めている。「通貨安競争」と「貿易戦争」も辞さずとの構えのようだ。

今回のトランプ政権幹部たちのダボス発言は、もっぱら中国を意識したものだが、日本が巻き込まれるリスクは無視できない。円相場が109円台に突入した直後の発言ゆえ、今後のトランプ政権幹部の言動次第で、円高が更に進行するシナリオにも現実味が増す。

くしくも、米国議会ではパウエル氏が新FRB議長に承認された。「低金利人間」を自称するトランプ大統領により指名されたので、政治的介入により利上げペースが遅れる、というようなケースもリスク・シナリオとして市場は意識せねばならない。「トランプ大統領ならやりかねない」との懸念が払しょくできない。これもドル安要因だ。

そして、通貨安競争ともなれば、中国人民銀行の人民元安誘導のリスクからも目が離せない。「米中通貨戦争」ともなれば中国側の「武器」は、大量保有する米国債である。既に「中国、米国債売却」の報道が流れ、中国側が否定という一幕もあった。昨晩の米債券市場では米国債がやや売られている。

なお、本日はECB理事会が開催され、明日はダボスでトランプ演説が予定されている。

ドル安要因、円高要因、ユーロ高要因が複合的に絡み、現在のドル安トレンドが形成されているので、まだまだ今週は波乱が続きそうだ。