米物価5%急上昇、期待インフレ率は伸び悩み

米国市場のインフレ期待を示す指標である5年、10年ブレークイーブンインフレ率(BEI)が、今年は急上昇した後、6月に入り、下落傾向が加速していた。
昨日の5月消費者物価5%上昇発表後の変化に注目していたが、さすがに若干反転している。

 

                                                                   (出典:セントルイス連銀)

これまで6月に発表された諸々の経済統計は好転している。
昨日発表された消費者物価上昇率5%は、3月4.2%に続く急上昇だ。
最新雇用統計(5月)も非農業部門雇用者数は55.9万人増と、事前予測の60万人超には届かなかったものの、底堅い伸びを示した。
昨日発表の新規失業保険申請件数(雇用の先行指標)も6週連続の減少で37万6,000件であった。
8日発表された4月求人件数930万人という数字も衝撃的であった。
1日と3日に発表されたISM景況指数も絶好調で、特に非製造業部門(3日発表)は64.0と過去最高を記録した。


それでも、FRBの「インフレは一過性」との見解が変わる兆しは感じられない。
期待インフレの下落は、市場の「FRBには逆らうな」との姿勢を映す現象ともいえる。
但し、「FRBを疑え」との論調も根強い。
FRBのインフレ期待感が高まらない理由は、供給制約を一時的現象とする見方に加え、現在の賃金上昇傾向が継続性に欠けるからであろう。


足元では、飲食業・住宅部門などで人手不足が深刻化して、入社時特別ボーナス支給の厚遇などが話題になる。
臨時労働力として高給で学生アルバイトが動員され、教授たちは学業をおろそかにしていると嘆く。
賃金上昇も、ここまで来ると「臨時手当バブル」の様相だ。
この労働需給ひっ迫の背景には、労働参加率が5月も61.6%とコロナ前の63%台には戻らないことが指摘される。
その背景は複雑だ。共稼ぎ夫婦の場合、不規則な学校再開ゆえ、妻は家庭を離れられない。
失業保険増額で、勤労意欲を削がれた労働者のモラルハザードも顕著。
働けるシニア層特にベビーブーマー世代もコロナ感染がトラウマとなり労働市場に戻ってこない。


とはいえ、ワクチン接種が進み、経済回復が進めば、労働参加率上昇も見込める。
学校再開は時間の問題であろう。失業保険増額は早晩失効する。
感染トラウマも日常生活が正常化すれば薄れる可能性がある。
労働参加率がコロナ前の水準に戻れば、賃金上昇にも歯止めがかかるであろう。
更に、昨年同月対比の消費者物価上昇率に関しては、低水準からの上昇率という「ベース効果」が無視できない。
この要因は6月頃まで続くので、消費者物価上昇率の実態が見えるのは7月以降になるとの見解もある。


                                                                 米国消費者物価上昇率(前年同月比)

なお、異変種特にデルタ株へのワクチン有効性という不透明要因も残る。
この問題は、供給制約で物価は上がるが、景況感は悪化する「スタグフレーション」リスクを孕むので要注意だ。


さて、五輪のスポンサー企業が、用意した五輪期間中の広告を、予定通り流すか否か、困惑している、とフィナンシャルタイムズが報じた。
この問題は、日本のメディアでは取り上げられない。
大事な広告主=顧客だからだ。
五輪のマークを小さくした広告を掲載する企業。五輪中の広告は控える企業。
世論調査で国民の五輪反対の割合がどうなるか、模様眺めの企業。
五輪用キャンペーンを全て準備し終えたところで、広告中止を決定した企業などは、かなりの損失を負うようだ。
総じて、五輪スポンサーになると、当該企業のイメージが悪くなると指摘する専門家もいる。
まさに前代未聞。祝福されないオリンピックとなるは必至。